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2018/06/05
香りとブランディング〜高級ホテルはなぜ、いい香りがするのか?(1)
筆者:小林彩子

10数年前、恵比寿のウェスティンホテル東京に
友人数名で泊まった時のこと。

館内に入った瞬間に誰からともなく、
こんな言葉が口をついて出たのです。

「すごいね!このホテル、いい香りがする!」

なんだろう、石けんかな?香水かな?
いいホテルは香りも違うんだね!

その場にいた皆が、
興奮気味に話していたのを思い出します。

 

あれから10数年が経ち、
東京は高級ホテルの建設ラッシュ。
「いい香りのするホテル」も、
そこかしこで見かけるようになりました。

特に外資系のホテルは、
オリジナルの香りを入口やロビー近辺で
使うことが多いようです。

 

 

さて、今回のお題の
「高級ホテルはなぜ、
いい香りがするのか?」について。

理由は大きく分けて2つありますが、
今回はそのうちの1つについて書いてみます。

 

理由1
香りは、瞬時に理屈抜きで、
そのホテルのメッセージを
伝えられるツールだから

 

嗅覚は五感の中で唯一、理性を介さず、
本能に直接伝わる感覚です。

 

人が香りを嗅ぎ、
その情報が本能に届くまでの時間は、
たったの0.2秒。

私がウェスティンの香りを嗅いだ瞬間に、
理屈ではなく「いい香り!」と
本能的な判断をしたのは、
嗅覚の仕組みによるものだったのです。

 

つまり
「来館者はホテルの香りを嗅ぐことで、
瞬時に本能を刺激されている」のです。

 

 

さて、高級ホテルが香りを使って、
来館者にイメージしてほしいことは
何でしょうか。

「落ち着いた雰囲気」
「ラグジュアリー感」
「非日常感」は必須と言えそうです。

 

リゾートホテルの場合は
「南国をイメージさせる優雅な感じ」
「空気の澄んだ高原の爽やかさ」

都市型ホテルなら
「洗練されたクールな感じ」
外国人客の多いホテルなら
「日本らしさ」

といった、
そのホテルの個性や立地などを含めた
ブランドイメージも、
香りを通じて伝えたいところです。

 

 

具体例として、
ウェスティンの香りを
詳しく見てみましょう。

日本のウェスティンで使われている
香りの名前は、「WHITE TEA」

制作を担当しているのは、
南フランス生まれのメーカー
「ESTEBAN(エステバン)」。
インテリアフレグランスの
先駆けとも言えるブランドです。

 

「WHITE TEA」の香りの内訳は以下の通りです。

・ホワイトティー(白茶)の茶葉
・ツタ
・ゼラニウム
・フリージア
・杉のウッディチップ
・バニラ
・ムスク

 

一般的に香りをブレンドする時は、

「3つのノート(香調)を
組み合わせて作ると、
バランスの取れた香りになる」

と言われています。

 

「WHITE TEA」に使われている
香りをノート別に分類すると…

もっとも早く揮発する「トップノート」
スプレーした時に、最初に感じる香り。
・ホワイトティー(白茶)の茶葉
・ツタ

 

香りの中心になる「ミドルノート」
トップノートが揮発した後に香る、
香りの軸となる部分。
・ゼラニウム
・フリージア

 

持続性のある「ラストノート」
もっとも揮発が遅い。香りの深みを出したり、
香り自体を長持ちするために加えられる。
・杉のウッディチップ
・バニラ
・ムスク

となります。

 

私自身が「WHITE TEA」を
ウェスティンの館内で嗅いだ時、
ほのかに甘くパウダリーな、
石鹸のような香りだと感じました。

それはラストノートの部分、
バニラやムスクの香りを
感じ取っていたのではと思います。

つまり、香りを噴霧してから
だいぶ時間が経っていたことが
わかります。

 

※補足
ムスク(ジャコウ)は、ジャコウジカの
分泌物から作られる動物性香料です。
現在、ジャコウジカはワシントン条約の保護対象のため、
本物のムスクを輸入することはできません。
よって、一般的に「ムスク」と言う場合は合成香料を指します。

 

 

この香りの構成から
キーワードとして上がるのは、

・テンションの上がりすぎない、
フレッシュな爽やかさ
(ホワイトティー、ツタ)

・すっきりとした華やかさ
(ゼラニウム、フリージア)

・清潔感のある、穏やかな甘さと落ち着き
(杉、バニラ、ムスク)

などでしょうか。

 

「華やか」を表現するときにも
濃厚な花の香りを採用しなかったのは、
「爽やかさ」や「清潔感」を
重視しているからではと思います。

 

 

ただ、個人的には
ウェスティンのゴージャスな設備に対して、
やや軽やかな香りのように感じました。

どうも、これには理由がありそうです。

ウェスティンのサイトを見ると、
「WHITE TEA」が
ホーム・フレグランスとして
販売されているのです。

商品展開も、ホーム・フレグランスに限らず、
バスオイルなどの化粧品、
布製品の匂い取りと
ラインナップが豊富です。

 

つまり、「WHITE TEA」の香りは
ウェスティンホテル全体の
クラシックなイメージというよりは

「客室内でのくつろぎ」

にフォーカスした香りなのではないでしょうか。

 

「館内に入った瞬間、
自分の部屋のようにくつろいで欲しい」

 

これがウェスティンホテルからの、
香りを通じて来館者に送られる
メッセージなのではと思います。

 

「WHITE TEA」の
爽やかで清潔感のある香りは、
上質なリネン類のイメージにも近い気がします。

 

年齢性別を問わず愛される香りの作り方は、
さすがエステバン。
この香りを家で楽しんでいるファンも
きっと沢山いることでしょう。

 

もう1つ、高級ホテルがいい香りを漂わせる
理由があるのですが、それはまた次回に。
(小林彩子)