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2020/11/05
役立つデザイン(1)「紙」ラグジュアリーを伝えるメディア
筆者:大田忍
ビジネスや人生に役立つデザインがテーマの記事です。

もっともわかりづらいデザイン「紙」

グラフィックデザインについてデザイナーではない人(つまりクライアント、依頼者)が、いちばんわかりづらいのが紙です。ロゴ、デザイン、レイアウトは目に見えてわかるし、競合他社のそれも目にしています。ウェブや動画ももちろん見られます。プロダクトデザインも目に見て手に触れてわかります。しかし紙となるとグラフィックデザイナーや印刷に携わる人ではないとかちょっとよくわからないのではないでしょうか。そして、その割に金額差が激しい素材であり、メディアです。「フォント・書体」以上に分かりづらいし、それゆえに価値も理解しづらい、かもしれません。

本当は知っているかもしれない「紙」の違い

紙の違いを知るのに良いフィールドはラグジュアリーです。いわゆる高級品、または高級なサービス。なぜか? 質の良さを伝えるのは、「一見わかりにくい 手触り」だからです。服飾なら生地です。そしてデザインにおいては手触りを伝えるメディアとして代表的なものが「紙」です。この紙、ユーザー、消費者としては、多くの人が意識にまでのぼらないまでも、感じるという体験をしている人は少なくないはずです。それは商品やカタログ、パッケージとして使われているだけではなく、メニュー、ショップカード、DMなどにも使われていて、それにわたしたちは接していて違いは感じているのに意識まではしていない、ということが多いからです。このパラグラフの冒頭でも述べましたが、その違いを知るには、ラグジュアリーな領域が一番わかり易い。なぜなら
ラグジュアリーというのものが伝えたいのは、「本物感」だから。
見た目は、写真やデザインで作ることができます。木目がプリントされた床などが、例としてわかりやすいと思います。木目がプリントされていても木ではありません。そこにあるのは「雰囲気だけでもいい具合にしたい」という思いや狙いです。ラグジュアリーは、そういったものと一線を画そうとします。ちゃんと木を使用します。ホテルなら人工ではなく天然の石を使用するように。

わかりづらい違いがわかるのが嬉しい

たとえばこちら。これはレインコートで有名な英国のブランドです。このブランドのシグニチャー、象徴的な特徴は、「ゴム引きコート」です。雨の多い英国らしいコートでゴム引きにしていることで水を弾く仕様です。ちょっとゴワッとしていて大きめのシワができ、独特のシルエットになります。そして触れると「ぬと」っとした感触がします。
上記の写真のパンフレットは、わかりづらい特徴がいくつかあり、まずロゴのMACKINTOSHの部分は、箔押しの仕様になっています。印刷の関係で箔押し以外印刷しづらくなっているためということもありますが、それ以上に「うっすら光を反射して光る」んです。ラグジュアリーブランドがメディアやデザインとして好む「ちょっとした質の違い」がここに観ることができます。「良いものを知っている人なら、この分かりづらい違いに気づかれるかもしれません」。そんなニュアンスがあるのではないでしょうか。
そして印刷会社が何度も試し刷りをして調節してであろう「薄っすらとみえるパターン」が印刷されています。写真だとけっこうはっきり見えますが、実物は一見するとただの濃い茶色に見えます。ここにも「わかりづらいけど、気づかれるかもしれません」というニュアンスがあります。
そしてもっとも「マッキントッシュらしく」、「もっともわかりづらい」が、おそらく伝わるであろう仕様が「手触り」なんです。こればかりは写真でh伝わりませんが、触ると「ぬと」っとした触感なんです。これは紙の種類ではなく、紙に施した加工によるものなんですが、撥水性が高くなる加工が施されており、触れる人の指にある微細な水分が弾かれて、人はその水分を感じて「ぬと」と感じます。これがなぜ「マッキントッシュらしい」かというと、この感触「ゴム引き」に似ているからです。この仕様は、ただ印刷するだけよりずっとコストがかかります。しかも手にした人は「あ、ぬとっとしてゴム引きみたい!」と気づかないかもしれません。でも気づいた人は「マッキントッシュらしい!」と感じるはずです。ブランディングとは、アウトプットすべてをコントロールしてらしさを伝えることなんですが(それ以前に「らしさ」とは何かを徹底してクリスタライズしますが)、これがまさにお手本みたいなブランディングのひとつです。

「ぬと」とした紙「プライク」

紙の話のはずなのに加工の話になってしまいました。まず伝えたかった「わかりづらいけどあなたならわかるかも」という姿勢がラグジュアリーブランドのアウトプットによくある、ということを伝えたくマッキントッシュのパンフレットの話をしました。
マッキントッシュが伝えようとした「ぬと」とした感触の加工があるのはわかったけれど、紙はないのか? と問われれば、あるんです。いくつかあるのですが、ラグジュアリーブランドで使われることが多い紙をひとつ紹介します。その名は「プライク」。
手にすると「ぬと」とします。色は10種類あって、紙から色がついているのでカットされた部分が白くなることもありません。けっこう高額の紙なうえに印刷がしづらい。ゆえに印刷をせずに箔押しという加工をすることが多いです。こちらを観てください。
こちらは、タグ・ホイヤーというスイスのラグジュアリー腕時計ブランドのカタログです。意匠はすべて銀の箔押しで、紙がプライクのレッドです。
タグ・ホイヤーはラグジュアリー腕時計ブランドのなかでは比較的購入しやすい価格帯のブランドですが、LVMH傘下のブランドで映画『栄光のル・マン』でその名を世界に広め、また『インセプション』でも使用されています。とまれ、なぜタグ・ホイヤーのカタログでプライクが使用されているのか……おそらく手に触れた途端に感じる「ちょっとかわった感触」と精巧な箔押し意匠が、シンプルに「ラグジュアリー」を伝え得るからと考えたからでしょう。
タグ・ホイヤー以外にも、菓子のピエール・エルメのパッケージによく使用されています。

観ただけでわかりづらいが触れるとわかる「手触り」

ラグジュアリーブランドは、何度も書きましたが「わかりづらいけど、わかるかもしれない違い」を伝えることを好みます。がゆえに紙がその手段、メディアとして使われるのですが、意匠(目に見える飾り)というよりは手触りを伝えることを好みます。さきほどのプライクやマッキントッシュがパンフレットに施した加工は、かなりわかりにくい手触りですが、ラグジュアリーブランド全般では、もう少しわかりやすい手触りを紙に施しています。または手触りを施された紙を使用します。
これらは少し前のDiorとTiffanyの紙袋です。意匠は、どちらもシンプルにロゴのみプリントされていますが、紙にはでこぼこした凹凸があります。これはエンボスという紙に凸凹がでるように型に挟んだ加工が施されているからです。さきのプライクよりはもう少しわかりやすい、親切とも言えるメッセージです。
「シンプルですが本物です」
というメッセージがここにあります。冒頭の写真でもあるこちらは、グラスのフランスのブランド、バカラのDM(伊勢丹から送られてきたもの)です。