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2020/05/26
パッケージデザイン:Kiehl’s の日焼け止め
筆者:大田忍
キールズとは、アメリカのコスメティックスブランドで、肌、髪、ボディケア製品に特化しており、創業が1851年(!)。創業してから170年近い長寿ブランドです。
2000年に買収され、現在はフランスのビューティーコスメティックスブランドのロレアルの傘下。買収額は100〜150億円と言われています。
現社長は、Klaus Heidegger。元スキー選手。

キールズのパッケージの上手さ1:非塗工紙

化粧品を購入するとき、良いモノを好んで選ぶ方は、何に気をつけるかというと素材です。
「ちょっと高くていいから肌に良いものが良い」
肌に良いということは、「身体に悪そうな科学的な素材があまり使われておらず、自然由来のものが多い」というイメージが湧くと想定されます。食事に似ています。良質な食事になればなるほど化学調味料フリーになっていきます。このイメージに応えるためには、パッケージの感触(テクスチャといいます)をナチュラルなものにしたい。
ナチュラルな感触を実現するためキールズの日焼け止めのパッケージ(箱)には、非塗工紙が使用されています。

非塗工紙とは

紙は、塗工紙、微塗工紙、非塗工紙があります。紙の表面に塗料を塗ったものが塗工紙です。何のために塗料を塗るのかというと印刷が綺麗にできるようにするためと平らにするため。着色が綺麗に反映できるようになるからです。逆に非塗工紙は、塗工紙が塗られていないのでインキは紙に染み込み、彩度(色の鮮やかさ)が低くなります。しかも少しにじみます。
一見、非塗工紙なのに印刷すると色鮮やかに印刷できるラフグロスという種類の高級紙もあります。
日本でパッケージに使用できる紙でキールズのパッケージに近いのが(そしてパッケージに特化しているのが)、竹尾の気包紙です。

非塗工紙を使うと「自然なもので出来ている」という印象を与えられます

じゃあみんな非塗工紙で作ったら良いではないか!という考えたいのですが、非塗工紙は高くて不便なんです。ではどんな紙が安いのかと言うと一番良く見る紙が安いです。チラシならわかりやすいのがコート紙です。印刷が綺麗に出るし安いので特に印象に重点を置かない場合は、コート紙が選ばれます。郵便受けに入ってるチラシのほとんどがコート紙だと言っても過言ではありません。
非塗工紙の場合は、紙が高いのに加えて、彩度が落ちるし、汚れやすくなります。汚れを避けるためにパッケージにはニスが塗工されたり、PP(ポリプロピレン)を貼る加工が施されることが多いです。出荷してパッケージが汚れていると店頭に陳列しづらくなりますのでロスが発生します。それを考えても汚れにくくたいわけです。
ゆえにまあまあパッケージにコストをかけて非塗工紙が使われていることになります。

非塗工紙に近い紙で印刷されている雑誌、Kinfolk

デンマークのスローライフ提唱の雑誌、Kinfolkは、雑誌もムック本も非塗工紙風(たぶん微塗工紙)で印刷されています。Kinfolkに限らず、北欧の雑誌よくに見られる傾向です。My Residenceというスカンジナビアン家具の雑誌も非塗工紙風です。
風には、写真の露出も関わっていて、コントラストを弱めにしています。
Kinfolkは日本語版も出ています。
My Residenceは、書店なら蔦屋書店などで取り扱いがあるかもしれません。
これら以外にイギリスの雑誌、Cerealも同じ質感の紙と写真を使っています。
Cerealの表紙はロゴ部分がデボス加工になっています。デボス加工とは、凹ませる加工です。質感にこだわりがないと選択されない加工です。なぜなら地味なのに印刷だけよりも高いコストがかかるためです。(そんなに高いわけでもありませんが。)

キールズは商品のパッケージに非塗工紙のニュアンスを引き継がせている

こちらが中の商品で、さすがにナチュラル感がない素材を使うことになっているんですが、使用されているオレンジ色に注目してください。

くすんでいるんです

外パッケージに発色の悪さを中のパッケージに反映しているんです。ややくすませすぎなんですが(笑)、プラスチックな感触でありながら、色をみると「ナチュラル」と感じてしまうデザインなんです。
これくらい与える印象にとても配慮しているんですね。

デザインとは紙や色を選ぶこと、設計することも含んでいる

グラフィックデザイナーやグラフィックデザイン会社は、メーカーの営業利益までは考えることはあまりありません。デザインの完成度、つまりユーザーや受け手にどのような印象を与えるかにフォーカスしています。
だから広告からパッケージ、ブランディングにかけるコストがどれくらいの割合だと商品としてバランスが良いのかを考えるのはメーカー側(もしくはコンサルタントと一緒にですが)です。
故にメーカー側が与える印象について精通していたほうが良いんです。総合的に判断ができるから。なのでブランディングを重視している企業は、社内・社外に関わらずデザインやブランディングを一緒に考えるクリエイティブ・ディレクターを置きます。
デザインというものは、目に見えるものだけではなく、触感も含むし、接し方も含みます。例えば、佐藤卓さんという著名なグラフィックデザイナーは、クールミントガムがコンビニに置かれて顧客にどう見えるかまで考えてデザインをしています。
キールズの商品デザインも、このようにかなり高度なコミュニケーションを意図して練られています。
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