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2019/05/20
ビジネスパーソンのためのデザインと書体:書体とは服
筆者:大田忍

 

「フォントとは、声のようなもの」とよくたとえられます。

間違いではないのですが、それ以上の機能を担っています。

 

声という意味では、例えばこういう例がわかりやすいでしょう。

怖い話が始まりそうです。この書体は、古印体とか淡古印と書体で、本来は、「ハンコ」用に開発された書体でした。それが1984年に週刊少年ジャンプで連載が始まった『ドラゴンボール』で使われ始めてから、「かすれた声の語り部」という気配の書体として認識されはじめました。それが連載から3年後に、恐怖の大魔王が使う言葉に使用され、「怖い文字」、いわゆる「ホラー書体」として定着していきます。

 

同じ言葉でも、新ゴという書体にするとご覧の通り、何かの出だしの言葉という気配だけになります。

こちらはどうでしょう?

 

小説の始まりのような気配になったのではないでしょうか? こちらは芥川賞作品での使用頻度が高い秀英明朝体という書体です。

このように、書体ひとつで気配が変わることを指して、「声」とたとえられるのも納得できるのではないでしょうか。(詳しくは、美しき書体マニア、正木香子さんの『本を読む人のための書体入門』という本に本と選ばれる書体の奥深き関係が書かれています。※1

しかし書体は、この喩えである「声」以上の機能を有しています。それは喩え直すならば「服」です。

 

書体は服

そもそも服とは、わたしたちにとってどんな存在でしょうか。衣食住に含まれるように「快適に生活するための必需品のひとつ」ですが、それ以上の意味を持っています。

たとえば、シャネルを着ている女性であれば、「裕福でリベラルで自己主張を重視し、どちらかといえばフェミニズムを良しとする」人物である可能性が高いでしょう。シャネルというブランドを作ったココ・シャネルは、女性が女性らしく自由に生きていけるためのファッションを作り上げた方です。そして、香水については、「たとえば、わたしがパーティでカーディガンを忘れて帰ったときに、そのカーディガンを手にした人が『これは、ココのだわ』と気づくようなものだと考えていました。美しき自己主張も彼女のブランドには含まれています。

それを着ている人は、そのココ・シャネルが作ったブランドを「好んで着ている」わけです。

ハイブランドに限りません。オタクを模してコントをする芸人の方々がする服装は、いつも似通っています。つまり服装で、オタク文化を表現することができているわけです。(ロバート秋山さんやドランクドラゴンの塚地さん。最近ならジェラードンのコントなど)

 

ヒップホップファッションに身を包んだ方がいれば、彼や彼女がヒップホップを好きなことが容易に判断できます。

服をオリジナルで作って着る方もいるでしょうが、ほとんどの方は、購入します(ビスポークといういわゆるオーダーメイドも含めて。)

書体も、服に似て、それが持つ時代や雰囲気や気配や方向性、指向性を体現するための記号としての記号を持っています。文字としての記号の他に、書体はブランドという記号を持っています

 

たとえば、ルイ・ヴィトン。

(引用元:https://www.louisvuitton.com/)

このロゴタイプは、Futuraという1923年にパウル・レナーによってデザインされた書体です。下記のような書体にある文字の端っこの「ひげ」(セリフといういいます)がありません。

こういう書体をサンセリフ体といいます。「セリフなし」という意味で19世紀後半に誕生しました。しかし、このFuturaとい書体(フーツラと読みます)、ローマの碑文に刻まれた文字の形をベースにしています。大文字だけを使用し、さらに文字間を広げることで、ローマの碑文的な気配を作り出しています。ルイ・ヴィトンは、Futuraという書体をロゴタイプに使うことで、この新しいけれど、威厳と気品のあるブランドをFuturaから「拝借」しているわけです。

わたしたちが、ルイ・ヴィトンのバッグやトラベルケースを使うときに、ルイ・ヴィトンのブランドを「拝借」するように。

 

これが、書体を服に例える理由です。

 

だから、わたしたちは書体を企業体の何かしらを表現する際に使用するならば、ある程度の書体の知識を持っていたほうが良いのです。Tシャツにスエットで、クライアントに赴かなずに、スーツか何かしらのフォーマル感のある服装をしていくのと同じように。

 

それが、このブログで「ビジネスパーソンのための」と前置きして理由でもあります。これからも、書体を含めた、ビジネスに有用なデザインの話を書いていきます。

 

ここでひとつ、お断りをしておきます。

グラフィックデザイナーたちを含めて、してしまいがちな誤解を説いておきたいと思います。

書体選びやデザインには、不正解はあっても正解はありません。

「こうしなくてはいけない」というルールは、じつのところありません。いい服を着ていれば、万事OKというわけではないというか、むしろ正解は無数にあるし、それが正解かどうかはすぐには、わからないという意味です。ビジネスにおけるソリューションにもクリエイティブにも同じことが言えます。ただし「これはちょっとまずい」という不正解はあります。先の「Tシャツにスエットで、クライアントに赴く」みたいに。

なので、杓子定規に寄る辺となる正解をマスターしていく、ということではなく、知識があれば、より良い創造ができるやないかい、という姿勢で、このブログを書いていきます。

S

 

※1 『本を読む人のための書体入門』正木香子