自分で組み立てた家具にはみょうに愛着を持ってしまいます。だれもが心当たりあるんじゃないでしょうか。これをイケア効果と呼びます。このイケア効果、家具だけじゃなくって、料理やアイデアにも発生しているんです。
たとえばケーキミックス。全部材料が入っているとあまり売れないんです。なぜ売れなかったかというと、全部材料が入っていると所有意識がうまれないからでした。所有意識とは「自分が作って完成させた」という意識です。パーティの最後に出すケーキに自分で作ったという意識がないと後ろめたさを感じてしまうんです。ものごとは最後が大事です。これをピークエンド(後述)って言います。
そこで、心理学者でありマーケティングの専門家のアーネスト・ディヒターが思いついたのが、ケーキミックスの不完全にすることでした。自分で新鮮な卵や牛乳を買って、バターを加える、という一手間が必要な商品にしました。これでこの商品はすごく売れるようになりました。これを「タマゴ理論」と呼ぶようになりました。
イケア効果とは
少しでも手間をかけて、完成させると、出来上がった物への評価が創作者によってのみ高まる効果
です。イケア効果のポイントは最後にまとめます。
ハーバードビジネススクールのMichael I. Norton、エール大学のDaniel Mochonおよびダン・アリエリー(Dan Ariely)によって名前づけられたものです。
The “IKEA Effect”:When Labor Leads to Love
Michael I. Norton, Daniel Mochon and Dan Ariely
応用1
このイケア効果を利用した商品やサービスは多くあります。カスタマイズすることで自分だけの商品を作れるサービスはいろいろありますが、これはこのIKEA効果を利用したものです。なので応用としては、お客さんに自分でカスタマイズできるような商品やサービスを提供することです。どの程度の労力が最適かは計測する必要がありますが。
応用2
私たちは常日頃ちょっとした手間を省くために出来合いのものを購入したり、外注して家事などを済ませたりすることがあります。しかし自分でやることで、愛着や歓びを感じるというこのイケア効果を使えば、手間暇が幸福を産むということを利用できます。
応用3
これはNIH症候群といって、自分たちのアイデアは受け入れるのに他者のアイデアは受け入れないことにも関連してきます。なので、誰かに何かを行動を促したいときは、
自分たちで考えたように思わせること
が有効になってきます。選択させること、カスタマイズさせること、考案あさせることで、対象者の実行意欲が格段にあがる可能性が高まります。
対処
イケア効果の問題は、創作者(手間暇をかけた本人)と非創作者のあいだで、作ったものへの評価が不均一になることです。デザイナーや作家が自分が創作したものに対して与える評価とそれを受け取る側の評価にもこのIKEA効果は及んでいる可能性が高いです。ゆえに創作した者に対して第三者の評価を常に挟む工夫をすると池谷効果による不均一な評価を軽減することができるでしょう。
ピークエンドの法則とは
過去の経験をその時間や経過ではなく、その絶頂(ピーク)時にどうだったかと「どう終わった」かだけで判定する傾向
です。
イケア効果は、行動経済学の研究者、ダン・アリエリーの著書『不合理だからうまくいく』のP120からP152でかなり詳しく紹介されています。Kindle版は現時点でありません。
その他に認知バイアスをばっちり理解できる本としてはノーベル賞受賞者のダニエル・カーネマンの本書。プロスペクト理論をがっつり理解できる本です。
そんなダニエル・カーネマンそのひとを理解するには、『マネー・ボール』の著者、マイケル・ルイスによるこちらがおすすめ。
認知バイアスとは、進化の過程で獲得した、「こうすれば上手く生きられる可能性が高い」という行動セット。しかしケースによってはうまく機能しないバグになることもあります。これを知っておくと遺伝子に負けません。認知バイアス大全ではそんな認知バイアスを紹介しています。
236個の認知バイアスをこちらの記事で一覧にしています。イケア効果は№048。
焦らしましたが、これもピークエンドの法則の応用です。イケア効果の要点は以下の通り。
(1)なにかに労力をつぎ込むと、そのなにかの価値がわたしたちの中で高くなる。
(2)労力をかければかけるほど、愛着は大きくなる。
(3)自分で作ったものを過大評価し、他の人も自分と同じ見方をしていると思い込む。
(4)多くの労力をつぎ込んでも、完成させられなかったものには、愛着を感じない。
労力と愛情が比例すること、完成させないと発生しないことなどが要諦です。