BRANDING TAILOR

BLOG

2021/03/05
損が大嫌いな人間の落とし穴 「損失嫌悪」
筆者:-

得するより損するのが嫌?

「あなたは、100万円を得る嬉しさと100万円を失う苦しみ、どっちのほうが強いですか?」

おそらく失う方がずっと嫌なんじゃないでしょうか。これを損失嫌悪(または損失回避)と言います。

損失嫌悪とは

利益を得ることよりも、損失を回避しようとする傾向

英語では、Loss aversion。Lossが「損失」、aversionは「嫌悪」という意味。なので、Loss aversionは、「損失を嫌がる」という意味です。その結果、損失するかもしれない行為や選択を回避するので、ダニエル・カーネマン氏の『ファスト&スロー』では、損失回避と翻訳されていますし、日本ではその翻訳が定着しています。が、その意味するところとしても、翻訳としても「損失嫌悪」のほうが正しいとわたしは判断しています。

ダニエル・カーネマンらによれば、

損失は利益の2倍、心理的に強力である

ようです。(※1)

この得る歓びと失うつらさの度合いをグラフにするとこうなります。

画像1

5セント失う感覚と5セント得る感覚をグラフにしたもの
By Laurenrosenberger – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=67117183

この曲線が示す別の意味

この曲線をカーネマンらのプロスペクト理論に含まれるものなんですが、プロスペクト理論は、獲得と損失の関係以外にも、おもしろい人間の傾向を示しています。それは、この曲線が、損失でも獲得でも進むと緩やかになることです。どういうことかというと

最初に100万円を獲得した歓びより、さらに100万円を獲得したときの歓びのほうが少ないということです。また最初に100万円を損失したときの苦しみに比べて、さらに100万円を損失したときの苦しみは軽くなるということです。

この傾向をしっておくと人が借金を重ねる理由や投資において偏った行動をする理由が理解できるようになります。

漫画『インベスターZ』でもこのプロスペクト理論の側面について解説しているシーンがでてきます。

インベスターZ(1) www.amazon.co.jp

550 (2021年03月05日 10:09時点 詳しくはこちら)
Amazon.co.jpで購入する

論拠

エイモス・トベルスキー(Amos Tversky)とダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)(1979年)『Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk』 Econometrica誌

損失嫌悪に囚われる従業員と乗り越える経営者

アメリカ合衆国、シカゴ大学のリチャード・セイラー(Richard Thaler)という経済学者がいます。

画像2

リチャード・セイラー(Richard Thaler)教授
画像引用:Forbes 「ノーベル経済学賞のセイラー教授が提唱する「ナッジ」が重要な理由」

セイラー氏が、大企業の25ある部門の各部長らに、「裁量権のあるお金を全て失う可能性と倍になる可能性があるという選択肢があったらそれを選ぶか、選ばないか」と尋ねると部長らは皆「そんなリスクはおかさない」と答えました。セイラー氏は、同じ質問をその企業のCEOにしてみました。すると「全部のリスクだったら喜んで引き受ける」と答えました。(※2)

CEOは、可能性を合計して合理的に判断しており、各部門の部長たちは、損失嫌悪にとらわれて、獲得のチャンスより損失のリスクを大きく評価してしまっていました。

ところでリチャード・セイラー氏のこちらの本も面白いです。

実践 行動経済学 www.amazon.co.jp

2,420 (2021年03月05日 10:28時点 詳しくはこちら)
Amazon.co.jpで購入する

応用・対処

ということで、他の認知バイアスにも共通していますが、まずはこの認知バイアスを知っているということが大きなアドバンテージになります。

私たちは人間なので、認知バイアスから逃れると言う事はほぼ不可能です。ただし、「あ、これは認知バイアスだな」と気づいて、偏りある行動を回避することができるようになります。

さっきの例で言えば、CEOよりの考え方ができるようになります。ただし、CEOは部門の合計で判断できますが、部門部長は部門の合計で判断しますので、その差が、判断の基準に影響を及ぼしてもいます。ゆえに部長が拙く、CEOが賢い判断をしている、というのはあまりフェアではないでしょう。

それでも、この損失嫌悪をしっておくと

ゴールはどこで、選択の合計はプラスかマイナスか

という考えるクセが形成されていくでしょう。付け加えて、プロスペクト理論の理解にも繋がりますので、借金がかさむとか収益の増加への評価の麻痺にも気づけるようになります。

まとめ

数ある認知バイアスのなかでもプロスペクト理論は、経済学者によって提唱されたものだけあって、よりビジネスシーンに利用できる知識になります。投資、事業計画、家計などで強力に機能する武器になるのではないでしょうか。

認知バイアスとは

認知バイアスとは、進化の過程で獲得した、「こうすれば上手く生きられる可能性が高い」という行動セット。しかしケースによってはうまく機能しないバグになることもあります。これを知っておくと遺伝子に負けません。認知バイアス大全ではそんな認知バイアスを紹介しています。

認知バイアス一覧

236個の認知バイアスをこちらの記事で一覧にしています。損失嫌悪は№062。

 損失嫌悪がもっとよく分かる本

ダニエル・カーネマン氏の『ファスト&スロー』の下巻に損失嫌悪の説明が詳しく書かれています。本書でも「損失回避」と表現されています。

ファスト&スロー (下) www.amazon.co.jp

752 (2021年03月05日 09:28時点 詳しくはこちら)
Amazon.co.jpで購入する

 

関連記事

参照

※1:Advances in prospect theory: Cumulative representation of uncertainty

※2

ファスト&スロー (下) www.amazon.co.jp

752 (2021年03月05日 10:25時点 詳しくはこちら)
Amazon.co.jpで購入する