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2022/05/08
ラグジュアリーホテルのデザインは、“潔癖症の自然好き”
筆者:大田忍

ラグジュアリーホテルはなぜ暗いのか?

アマン東京のロビー

ホテルに限らないのですが、ラグジュアリーな空間は、比較的暗くなっています。ラグジュアリーなホテル、レストラン、ファッションブランドの店内は、リーズナブルなことが魅力な場所に比べて、必ず暗いんです。なぜ、暗いのか? それは

自然を模しているから

です。自然というものは、朝は青い光(いわゆるブルーライト)で少し弱く、昼になると光度が増して、色温度は少し低く(オレンジに近い色に)なっていきます。夕方に近づくとさらに色温度は下がり、オレンジとか紫が混ざった色になっていき、それがブルーに近づいていきます。以降は、ブルーが濃くなり、闇になっていきます。わたしたちの遺伝子は、未だに、1万年以上前に狩猟採集生活の頃の環境を前提としています。そのため、昼間は明るいことに、夜は暗くも、焚き火のように下からのオレンジがかった色にホッとします。これは、サーカディアンリズムに関連しています。サーカディアンリズム(Circadian Rhythm)とは、“Circadian”が「24時間周期の」という意味です。サーカディアンリズムは、もっと正確に言うと本来は24時間ではなく、25時間とか24時間11分と考えられています。ちょっとずつズレていく設定になっています。これは季節によって変わるため。どうやって調節するのかというと「陽を浴びて」調節しています。つまり午前中に陽を浴びることによって、「日が昇ったぞ」と身体は認識し、「体内時計の時間合わせ」をします。ずっと陽を浴びれない環境に人間を置くと毎日少しずつ狂っていき、昼なのか夜なのか、わからなくなっていきます。

「ラグジュアリーホテルは暗い」と書きましたが、日中はそれなりに明るいです。昼なので。

夕方のパークハイアット東京

でも、夜になると暗くなります。夜なので。

夜のパークハイアット東京

人間は、自然を前提とした脳や身体になっているので、朝になれば明るくなり、夜になれば、暗くなることで実は「ほっ」としています。自然だから。自分の脳や身体にマッチするから。そろそろ暗くなるでしょ?と朝に陽を浴びたわたしたちの身体や脳は予測しています。しかしそれが18時をすぎても、21時を過ぎても、一向に暗くならないと、身体は「どういこと?」と戸惑います。戸惑いはストレスに変わり、そしていざ寝ようとしてもさっきまで昼間だと認識していた脳や身体はうまく睡眠に移行できません。少々長くなりましたが、これがラグジュアリーホテルが全般的に暗い理由です。夜は暗いものであることが、わたしたちのリラックスをじわっと生み出すのです。

リラックスを求めると“潔癖症の自然好き”になる

帝国ホテル東京のロビー
(ちょっと斜めでごめんなさい)

すでに説明したとおり、わたしたちは自然に近づくほどリラックスする体になっています。しかし同時にわたしたちは、養老孟司さんが言うところの「脳化」した都会に住むことに慣れきってもいます。「脳化」とは、どういうことかというと「予想外のない世界」ということです。時間通りに来る電車、押せば反応するボタン、それが脳化。脳化した環境にいるわたしたちは、予想外が大嫌いです。予想外とは何か?脳の外にあるものです。ロジックの外です。虫やカビなんかは脳の外にあるものの典型です。これには子供も含まれます。子供は人間になるまえの自然側の存在です。人間は常識に沿った行動をします。予測できます。概ね。しかし子供は予想外のことばかりします。泣く、叫ぶ、暴れる。これが、自分も子供だったくせに、電車のなかで騒いだり、泣いたりする子供を迷惑がる大人(?)の根底にあるものです。脳化した環境に生きるわたしたちは、予想外が嫌い。そしてこれは、わたしたちが、ゴキブリを憎む理由です。彼らは、予想できるために整えた住環境のなかに闖入してくる予想外の存在です。予想外なため恐ろしい。こんなわたしたちは、予想の範囲内にあるものを愛で、外にあるものを怖がります。これが「潔癖症」と意味するところ。つまり現代のわたしたちは、

身体や脳は自然を欲し、意識は自然の予想外な部分を恐怖している

んです。自然は好きなのに、虫は嫌いなんです。そんな現代人に最大のリラックス環境を提供しようとするとどうなるのか。それは、

殺菌された自然環境を提供すること

これをマックスにしたのが、ラグジュアリー空間です。

ラグジュアリーホテルが提供する自然とは?

マンダリンオリエンタルホテル東京

すでに触れましたが、「夜くらいこと」は、ホテルが提供する自然のひとつです。それ以外の自然のひとつは、

「安全な火」は、とてもラグジュアリーです。そのため、多くのラグジュアリーホテルは、火を用意しています。マンダリンオリエンタルホテル東京は三段にも連なる炎を用意しています。(エタノールを使って安心な炎です。その他のホテルも多くこれを使っています。)コンラッド東京にもパレスホテル東京にもフォーシーズンズホテル東京にも炎があります。

他にもラグジュアリーホテルが用意している自然が2つあります。そのひとつが、

です。流れているホテルが多くあります。リッツ・カールトン東京もマンダリンオリエンタルホテル東京にもラウンジに水が流れています。流れていなくても、水が見える景色が用意されています。

コンラッド東京から見える海

最後の自然は、

です。わたしたちは土を予想外の存在、虫や細菌が潜むものとして密かに恐怖しています。しかし切り花なら安心です。自然のいいとこ取りです。これが、ラグジュアリーホテルのエントランスホールに必ず花が用意されている理由です。

シャングリ・ラホテル東京のグランドフロアの生花
アマン東京の水盤の上の木々は圧巻です

以上、闇、火、水、殺菌された花木がラグジュアリーホテルが提供している“自然”です。逆言えば、これらを上手に用意すれば、ラグジュアリーな空間を作ることができます。(また逆言えば、蛍光灯を使えば、ラグジュアリーは瞬殺されます。)

ラグジュアリーホテルでの目に見えない”デザイン”

コンラッド東京のロビー

以上が、ラグジュアリーな空間にある、現代人が最もリラックスできる殺菌された自然なわけですが、明るいところから暗いところにいきなり入ると何も見えなくなって不快であり、不安になります。これを徐々に慣らしていくプロセスを「シークエンス」(sequence)と言います。「連続した」という意味です。明るいところ現実世界から、徐々に滅菌、殺菌された自然を堪能できるラグジュアリー空間への移行を徐々にさせる工夫が多くの場所に施されています。最近は、高層ビルの上部に客室があるホテルが多くあります。一階から専用のエレベーターでラウンジやレセプションがあるフロアに移動します。専用のエレベーターのあるホールで、ホテリエが出迎えてくれますが、このとき、多くのホテルがオリジナルのフレグランスで空間を満たしています。ゲストは、そこで日常から切り離される契機を体感します。つぎに普段使っているよりちょっと暗いエレベーターに乗ります。降りると大きく広がるロビーへと徐々にまたは唐突に降りることになります。これらは、物語性のあるシークエンスです。これをデザインしているのは、建築家と照明デザイナーたち、香りのプロたちです。

まとめ

ラグジュアリーホテルのデザインを観ると、わたしたちが如何に自然が好きで、それと同時に自然のある部分が嫌いな潔癖症であるかが顕になってきます。それが問題だ!ということがこの話の主旨ではありません。ラグジュアリーな空間がどうのような構成要素で、何を目指して組み立てられているのか、ということを詳らかにすることが主旨です。

これが、照明に立体感があると素敵になる理由であり、レストランやホテルのロビーに暖炉などの炎を観ると喜ぶ理由です。ホテルの内外に水盤やプールがあるのも同じ理由です。

アマン東京のプール

ぜひラグジュアリーなホテルやレストランを訪れたときには、そこにある自然を探してみてください。それを通して、目に見えない無数のデザインが見えてくると思います。

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