第二次世界大戦時、日本の陸軍と海軍はあらゆる分野において独自開発にこだわっていました。機関銃も陸軍と海軍それぞれで開発しています。陸軍は、輸送用小型潜水艇すら海軍と協業したり、依頼するのでははく独自で開発しました。協業すれば合理的だし、ましてや戦時中、合理やスピードや戦略のほうが優先されるべき状況のはずなのに。
なぜか?
これに応えるのがNIH症候群です。
NIH症候群とは
ある組織が、アイデアの発祥が別の組織であることを理由に
採用したがらない傾向
です。
NIHとは「Not Invented Here」の頭字語(とうじご)です。このNIH症候群のために既存の製品をわざわざ独自で再開発しようともするため独自技術症候群とも呼ばれます。また「車輪の再開発(Reinventing the wheel)」という慣用句にもなっています。「すでに生み出されたものを自分で生み出そうとして時間を無駄にすること」という意味として使われています。独自開発はもちろんそれ自体悪いことではなく、必要である場合も多い。パテント(特許)の問題もあるし、マーケティング戦略によるため必要になることもあります。なのでNIHは、技術や法律以外の問題で独自開発しようとする傾向をさしています。わかりやすく言えば、
よく考えれば、無理に独自開発しなくて良いのにそれにこだわること
がNIH症候群ということになります。このNIH症候群は認知バイアスのひとつです。
NIH症候群は、マサチューセッツ工科大学のラルフ・カッツ(Ralph Katz)氏とトーマス・J・アレン(Thomas J. Allen)が、1982年に発表した論文(※2)のなかで定義した言葉です。
「努力が無駄になる人、報われる人」というセンセーショナルな内容の記事がnoteあります。
わたしは何度も読むほど感銘と多くの示唆を得た記事なんですけど、そのなかにこういう一文があります。
「解決法は自分で見つけるものではない」
わたしたちが何かしらの困難に直面したとき、独自の工夫で解決しようとしがちですが(わたしは特にそうです)、それと同じような困難が人類史上でおそらく何千回と発生しているはずなんですよね。まったく同じじゃなくても近い問題が。であれば、そういう解決法が載っていそうな本を探す、ネットで探すということから始めたほうが良いはずなんです。先日もある問題を解決するのにまず検索してみたら3分で解決しました。日本語で検索してなかったら英語で検索したらより見つかりやすくなります。翻訳サービスを使えばけっこうどうにかなります。(そういう意味でも英語はある程度みにつけてしまったほうが便利ですね。)
これNIH症候群の1種です。
この解決方法を使うコツは、上記の岡さんの記事にも書かれていますが、課題の精度を上げることです。問題は何か?ということを具体化すると解決方法も具体化していきます。
わたしも最近身につけた知識なのでまだまだ馴染んでいないので、受け売り感ががっつり残っています。
どうもNIHというのは自然と発生してしまうようです。NIHに対して、応用と対処があります。
対処
まずは対処ですが、組織的な活動にしろ個人のそれにしろ、無駄なことは避けたし、むしろ企業戦略にまで関わってくるので、NIH症候群という知識を共有し、対処するシステムを積極的に取り入れるが良いでしょう。
考え方やプロシージャのなかに「利用できる先人のアイデアや商品はないか?」というものを組み込むの手です。実際に、ファブレスという工場を持たないメーカー企業の成長が昨今目覚ましい実例をみれば腹落ちも良くなりそうです。
応用
他人やよその組織のアイデアや商品を使うのがよくても、自分のアイデアや商品を使いたくなるのが人間です。なので他者のアイデアを自分のなかで使うとき、または自分のアイデアを他者に使わせるときに、「自分で考案した」という要素を組み込ませるとプロジェクトはうまく進むかもしれません。冒頭の例でいれば、陸軍が海軍を利用してより良い陸軍のアイデアを具現化しよう!と考えれば、協業も可能になったかも知れないということです。他人のアドバイスを実行するときには、他人のアドバイスを組み込んだ自分の戦略を立てるとスムーズに楽しく実行できるかもです。ちょっと足すだけで良いかもです。さきの岡さんの記事の考えをわたしがそのまんま実行するときに、「しじみ式岡アイデア利用術」とか考えれば良いということです。ただしそれを他者に示す際には、出自は詳らかにしないとリスクが高くなりますし、自己効力感が逆に減じます。
日本軍がいかに失敗したのかを学べる古典に近い本。
失敗関連で、失敗を集めた本。こちらも名著。著者の中尾政之さんの『想像はシステムである』も便利な本でした。
NIHの応用のヒントが行動経済学関連のダン・アリエリー氏の『予想どおりに不合理: 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」 (』もすごく楽しくバイアスを学べる本です。
NIHの応用はこっちだった。↓
認知バイアスとは、わたしたちが進化の過程で獲得してきた「こうすれば生き延びやすくなる」という行動パターンが、誤作動を起こしたもの。全体でみると良いこともある行動パターンなんですが、知っておくと誤作動を避けられるものでもあります。
こういった認知バイアスをまとめたnoteのマガジンが「認知バイアス大全」。毎週火曜日と水曜日の15時更新。
NIH症候群は認知バイアス大全の№137。236ある認知バイアスの一覧はこちら。
大企業や国レベルで発生しちゃっているのがNIH症候群。新人のほうがベテランより気づく瑕疵もあったりします。そんなとき科学があなたや組織を救うかも。認知バイアスはそんな科学知識です。
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NIHは2種類ある頭字語(とうじご)のローマ字をそのまま読む略語のイニシャリズムです。NATOを「ナトー」と読むのがアクロニム(Acronym)。
※1
※2
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1467-9310.1982.tb00478.x
※3
※4