今から70年ほど前の1950年代は、核の時代とも呼ばれ、多くの科学者たちが率先し、社会がそれに追従するかたちで、核の力が、発電の常識をガラリと変え、それまでの爆弾武器はすべて時代遅れになり、核が兵器を一新し、水を淡水化させ、宇宙における人類の世界もがらりと変わるであろうと信じ、期待をしていました。こういう期待が、多くの、今なお残る古き良きSF映画にも反映されていることが見て取れます。
わたしたちは、一度イノベーションを認めると、それが社会をがらりと変えるはずだとその欠点や限界を軽視して、楽天的展望の材料にしてしみます。これをイノベーション推進バイアスと言います。英語では、Pro-inovation biasと言います。この「Pro-」は、「〜支持の」という意味。
イノベーション推進バイアス(Pro-innovation bias)とは、
イノベーション万歳という思い込み
です。イノベーションにある欠点を軽視し、イノベーションが社会全体を変え得るであろうと楽観的に思い込む傾向が、このイノベーション推進バイアスです。
1986年、当時のゼネラル・モーターズの会長、ロジャー・スミス氏は、「正規の変わり目までにわたしたちは、ペーパーレス社会に生きることになるだろう」と述べていました。(※1)
ちなみに2019年の日本の製紙業界の規模は5.2兆円で成長率は+2.7%です。
エヴェレット・ロジャーズ(Everett M. Rogers)の『イノベーションの普及(Diffusion of Innovations)』
実際のところイノベーションに限らず、新しい変革が今後の世界をどう変えるかと言う事は予測しづらいものです。いや出来ないと言っても過言でないでしょう。このコロナ禍もまた同様で、何人かの勇気ある知識人が今後の世界を予見した著書を出版していますが、本当はわからないはずなんです。可能性を模索することは可能で、そういうアウトプットなんでしょう。
ジャック・アタリの予想がこれ。しかし読んでいない。読もうかなーがこれ。
ゆえに、期待し過ぎも、イノベーションを軽視するのも得策じゃないのでしょう。ただ「社会全体には過剰に期待してしまう傾向がある」というロジャーズ氏の云う、この「イノベーション推進バイアス」が念頭にあると、備えが人より強く、しっかりとできるのではないでしょうか。
わたしたちの悲観主義バイアスや楽天主義バイアスというものに、あまり踊らされないようにしたい、という警句をここにみておくと賢明なのだろうなと考えます。
こうしてみてみると認知バイアスの知識って人々の動向や思想に水をさしてばかりな気がします。だから人気ないんでしょうね(笑)。しかし役に立つんですよ。
こちらのマガジンで認知バイアスの記事はまとめています。イノベーション推進バイアスは、認知バイアス大全№82です。
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#認知バイアス #イノベーション #イノベーション推進バイアス