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2020/11/11
科学で健康になる(1)「フィンランド症候群」というものはない
筆者:大田忍

科学で健康になるがテーマの1つめの記事です。同じ内容をnoteでも投稿しています。

フィンランド症候群とはなにか?

すごくざっくりいうと
「健康に気をつけたほうが、早死する現象」
をフィンランド症候群と呼んでいます。だれが呼んでいるのかと言うとこの論拠になっている研究結果に触れたフランスの本を『新評論』という雑誌で紹介しされたのがきっかけ。それを雑誌『新潮45』が取り上げ、さらに村上龍が取り上げ、日本で広まりました。朝日新聞で1994年7月23日に天声人語で取り上げられ、さらに広がる事態となりました。
わたしが最近読んだ池田清彦の『自粛バカ』でもP.122でこのフィンランド症候群を紹介しています。
「フィンランド症候群という現象がある。フィンランド保健局が40〜45際の男性の管理職、1222人を対象にランダムにほぼ半数に分け、612人には1974年から5年間、医師が定期的に健康診断を行い、必要に応じて健康指導を行った。残りの半数の610人には何も積極的な介入を行わず、健康管理は本人に任せた。その後1989年までの15年間、追跡調査を行い、亡くなった人の数を数えて死因を調べた。」(池田清彦『自粛バカ』P.112)
この結果、管理されたグループでは67人が死亡し、本人任せのグループは46人が亡くなった。つまり管理している方が多く死んだ、ということになります。そんなわけで医師に診てもらうほうが早死すると解釈し、それを日本のマスコミが(本来はフランスの雑誌が)、「フィンランド症候群」と名付けました。
池田清彦さんが、この著書で言っているのは、病院に行きたくないし、行かないほうが身体に良いかもよ、という考えです。わたしも病院が嫌いなのでその姿勢には同調しています。それになんとなく池田清彦さんを少し好きでいます。
しかしこのフィンランド症候群というものは、本当にあるのか?というとありません。厳密に言うと「多く支持され、ある程度世界中で認められた症候群や現象」だということではありません。
そもそも一国の名前をそのまんまつけた症候群ってかなり乱暴なものと言えます。「日本症候群」と言うのと同じですから。

症候群とは

症候群とは、「同時に起きる一連の症状。原因不明だけれど共通の病態を示す患者が多い場合に、その現象を総じて症候群と呼ぶ」ものです。英語だとSyndrome(シンドローム)。

「Finland syndrome」で検索しても論文も記事もヒットしない

やってみるとわかりますが、川口典男という方がJ-Stageという日本の科学・技術雑誌に寄稿した「フィンランド症候群」からの連想という記事の英語名として出てくるくらいで英語の記事や論文は出てきません。
それもそのはずで、フィンランド症候群という言葉は、世界の医学学会のなかでは使われることのない症候群だからです。

もと記事はこちら

フィンランド症候群の論拠になっている記事はこちらでJAMAというところに投稿されたものです。
1985年に発表されたもので、タイトルは
Multifactorial Primary Prevention of Cardiovascular Diseases in Middle-aged Men
Risk Factor Changes, Incidence, and Mortality
「中年男性における心臓血管疾患の多因子一次予防 —危険因子変化、事故、死亡率」
内容も結果も池田清彦さんが紹介した内容と同じです。問題は2つで、1つめは解釈であり、もうひとつは「フィンランド症候群」と呼んでしまっているところ。

フィンランド症候群」の問題を詳細に指摘したウェブサイト

今回のわたしの記事は、論拠から経緯まで含めて詳細に調べているこちらのウェブサイトを参照しています。

なぜ介入した群のほうが死亡率が高かったのか

まず15年間中に介入したのは最初の5年だけでした。そして介入している期間では、介入群の心疾患死亡者数は現象しています。また喫煙に関しては、両群に差はありません。介入群に対して行われた薬物治療の是非に注目されています。つまりざっくりまとめると
•介入の仕方がそもそも正しかったかどうかは疑問視したほうが良い
•死亡の原因は多くあり、介入を一つの原因としてみるのは危険
ということになります。参考にしたい研究だけれど、健康管理はかえって不健康!というのは危険だなぁというが合理的な評価となると考えます。

センセーショナルに取り上げたのはフランスの雑誌

上記のJAMAの論文をフランスのヌヴェル・オプセルヴェトゥール(le nouvevel Obsevaterur)が、1413号(1991年12月)で取り上げました。
ヌヴェル・オプセルヴェトゥールのウェブサイト

朝日新聞は、後に誤用への警告をしています

朝日新聞は、1994年7月23日に「天声人語」でフィンランド症候群を取り上げていますが、2002年11月9日に「窓」というコラムにて
予想を覆す結果だったことは間違いないが、焦点は薬物治療の是非だ。ちなみに喫煙量では両集団に差はない。
東京慈恵医大健康医学センターの和田高士センター長は「私たちの研究でも摂生し過ぎると血圧があがるという結果が出ましたが、大切なのは程良く気をつけることです。摂生しない方が健康に良いとはいえません」という。
フィンランド症候群を盾に喫煙や酒量の多さを正当化するのは、やめた方が良さそうだ。〈高橋真理子〉
と、フィンランド症候群による不摂生、喫煙、飲酒の正当化を避けるように警告しています。

それっぽい言葉にご用心

調べてみるとそんな言葉なかった!ということがときどきあります。例えば、「カラーバス効果」。
カラーバス効果とは、「一つのことに意識を向けると、それに関する情報が自然と意識に入って集まってくるという現象」という形で紹介されています。ウェブサイトによっては、「心理学」とまで言っていますが、心理学にカラーバス効果なるものはありません。
詳しくはこちらに書きました。
加藤昌治さんという方が『考具』という本で紹介したのがきっかけで日本で広まった言葉ですが、心理学を含め、科学のなかにこのような言葉はありません。
この他にも、メンタリストDaiGoさんの著書にも出てくる作業興奮という言葉も心理学のなかには基本ありません(あるけど別の意味で使われています。)
揚げ足ばっかりとっているみたいですが、「よく知ろうと思って調べたら、そんなんないじゃん!」ということがあっただけです。カラーバス効果なんて、今でも、実際にあるような気がするんですけどねぇ。とりあえず心理学の用語には無いぞ!と。

まとめ

それでもわたしは依然として病院はあまり好きじゃないし、行きたくないのはかわりません。が、フィンランド症候群を根拠にはしないでいます。だってそんなもの無いんですもの。
この他にわたしは、認知バイアスというものを200近く調べて紹介していますが、「そんなものないかもなー」というものはたまにあります。絶対に信用できるというものは、思い込む側の人間で形成している神くらいなもので、科学でも主張でも、強く参考にする、から、すごく疑ってかかるの間のどこかに点を置くしかなさそうです。
とまれ、研究を参考にするなら、ちょっとだけ自分で調べたほうが良さそうですね。