「部長のやつ、何もわかっていないからこんな問題がおきちゃうんだよ」という不満と「部下たちは事の本質を理解できていないから、問題が発生してしまう」という不満が、上司と部下たちの間で同時に生まれることがあります。
これは、両者それぞれが自己奉仕バイアスによって自分の都合の良いように出来事をみているからかもしれません。
成功の要因は自分にし、失敗の要因は自分以外にあると考える傾向
です。英語では、自己奉仕バイアスは「Self-serving bias」と言います。
「コントロールの所在」というコンセプトがあります。英語は、Locus of controlでLOCと略しています。これは、出来事の原因をどこに捉えるかという信念体系で、内部LOCと外部LOCの2つがあります。
内部LOCを持っている人は、彼らの成功が自分たちの努力によるものだと考えます。外部LOCの人は、逆に成功を仲間や運などの外部によるものだと考えます。外部LOCが行き過ぎると成功はすべて他者のおかげで、失敗は全部自分のせいと考えてしまう「インポスターシンドローム」になってしまいます。外部LOCのひとは、自己奉仕バイアスを強く持つ傾向があります。
インポスターシンドロームについてはこちら。
うつ病や自尊心が低い方は、内部LOCおよびインポスターシンドロームになりやすくなります。
自己奉仕バイアスは、自己強化と自己提示が動機だと考えられています。
Self-enhancement。自己強化とは、自身の価値を保とうとするものです。自己顕示バイアスによって、ポジティブなものを自分に帰属させることでポジティブな自己イメージを維持しようとします。
Self-presentation。自分がまわりに見せたいという欲求が自己提示。自己奉仕バイアスによって、他者からどう見られるかについてポジティブなものにしたいという欲求が根底にあります。
何か過失があったあときに、「しかしいっぱい努力した」と主張したり、思ったりすることがあります。しかしこのとき、わたしたちは、その努力が意味のあるものだったのか、どうかということへは注意を向けません。成績ではなく、努力した自分というイメージを与えようとするもの、それが自己提示です。
自尊心の形成や強化に自己奉仕バイアスは有効に機能するのですが、その一方で、成功や失敗の原因を考えるにあたり、歪んだ見方をすることで問題を産みかねないところがあります。自分の中にある失敗要因や、成功の外因を見逃し、ナルシシズムに陥ることになり、それはチームにおいては、関係を悪化させることになります。また学校においては仲間同士のみならず、教師対生徒の関係においても過失をたがいに相手の中にあるものと考えるなら、問題は解決せず、悪化していきます。
歳を取るにつれて、自己奉仕バイアスは減っていきます。
交渉時には、双方が自分の都合の良いように事実を解釈するとその差が大きくなるにつれ、合意に達しにくくなります。損害や被害の交渉の際は、自己奉仕バイアスが働いて、双方が偏って自分に有利な見積もりをしがちです。
自己奉仕バイアスは、以上ではなく通常なもので、良い面も持っています。しかし、度が過ぎると人間関係を悪化させたり、学習を阻害することになります。
対策としては、他の多くの認知バイアスと同様ですが、この「自己奉仕バイアス」という知識を共有することです。問題が発生したときに、互いに自己奉仕バイアスによる歪みがないかどうか指摘しあえる環境を作っておくと、このバイアスによって起こる問題は減らせるでしょう。
自分の考えを支持する情報ばかり集めてします確証バイアスは、この自己奉仕バイアスと関連したバイアスです。
こういった認知バイアスは、進化の過程で生き延びるのに有利な行動パターンとして形成されたものです。それが不合理に働いてしまったものを認知バイアスと呼んでいます。人間のみならず動物にも見られます。いわば、進化の過程で獲得した武器がもつバグみたいなものです。
認知バイアスについてはこちらのマガジンで随時、紹介しています。自己奉仕バイアスは、236ある認知バイアスの№143。
2011年の研究
2003年の研究
※1