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2022/06/06
値段が上がるほどブランドロゴは小さくなる理由
筆者:-

世界三大腕時計をご存知ですか?

パテック・フィリップ
画像引用:Rasin Web Magazine

誰が言ったか知らないのですが、「世界三大腕時計」というものがあるようです。 たぶんですが、日本でのみのもので、海外では「世界三大腕時計」というくくりはなさそうです。ロレックスやオメガ、タグ・ホイヤーなどの高級腕時計は有名なんですが、これらはこの世界三大腕時計に含まれていません。こたえは、パテックフィリップ、オーデマピゲ、ヴァシュロンコンスタンタン。すべてスイスのブランドです。腕時計好きじゃないと知らない方のほうが多い気がします。この「よく知らない高級な世界三大腕時計」の存在と今回の「値段が上がるほどブランドロゴは小さくなる理由」は同じ理由なんです。

値段が上がるほどブランドロゴは小さくなる理由

ボッテガ・ヴェネタのカセット(17万円)
画像引用:VERY 『大人気バッグ「ボッテガ・ヴェネタのカセット」はメンズも狙い目!』

最初に断っておきたいのですが、「値段が上がるほどブランドロゴは小さくなる」とタイトルで語っておきながら、実際には、

ブランドロゴは、価格が上がるほど、途中まで大きくなって、それから小さくなっていく

というのが正しいんです。長くなるので、端折ったタイトルにしています。グラフにするとこうなります。

サングラスの価格とロゴの存在感の関係
source: Subtle Signals of Inconspicuous Consumption

これは、ブランドロゴの存在感(主に大きさ)とサングラスの価格の関係のグラフです。安いとロゴは無く、1万円から3万円までにかけてロゴは大きくなり、それ以上の価格になると再び小さくなっていきます。これは、ペンシルベニア大学ウォートン校マーケティング教授のジョーナ・バーガー博士とモーガン・ウォード教授による研究です。かれらはサングラスの他にもハンドバッグで同じ調査を行いましたが、結果は似たものとなりました。

ジョーナ教授たちは、高額な商品は、持っていることが一つのステータスになるのだから、高額になればなるほど、ブランドロゴは大きくなるかもしれないと考えていました。実際、安価な商品にはロゴはなく、あってもすごく小さなもので、それから高額になるほどロゴの存在感は目立ちはじめました。しかしさらに高額になるとまたロゴは小さくなっていきます。せっかく5万円以上するサングラスを買っているのに、なぜ「どこのブランドかわからなくなる」ようなことをするのでしょうか? これ、先の三大腕時計の話にも通じてきます。ヴァシュロン・コンスタンタンの腕時計は、たとえば、こちらの「フィフティーシックス・コンプリートカレンダー」は312万円です。

ヴァシュロン・コンスタンタン「フィフティーシックス・コンプリートカレンダー」
画像引用:ヴァシュロン・コンスタンタン

ロレックスやオメガは見たらすぐにわかるのですが、「ヴァシュロン・コンスタンタン」と言われても、それが高いのか、安いのか詳しくないとわかりません。300万円もするのに。

新興成金は高額な商品をアピールする

産業革命以前は、金持ちは生まれる前から金持ちでした。以降は、ビジネスや金融商品によって、一代で富を手に入れる人びとが現れました。彼らのことを、新興成金(nouveau riche、New rich)と呼びます。彼らは社会階級に関係なく、金持ちになりました。新興成金は、お金だけではなく、ステータスも欲しがる傾向があります。ステータスを示すために、高額な服、時計、車、飛行機、ヨットなどを購入し、それをもって「自分にはお金と地位がある」というアピールをします。それゆえに彼らは、裕福ではない人にもわかりやすい高額なブランドを身に着けます。どこのどの、とまで言わなくても想像は難しくないでしょう。かつての「ヒルズ族」は、まさにこの新興成金に相当します。

メルセデス・ベンツのエンブレムも小さくなる

Eクラス ステーションワゴン 2016年モデル
画像引用:価格.com

メルセデス・ベンツのロゴは、5000ドル高くなるごとに1センチずつ小さくなっているそうです(※2)。この傾向は、わかりやすいブランドのルイ・ヴィトンやグッチにもありました。

インサイダーとアウトサイダーが生まれる

以前、『ラグジュアリーを伝えるメディア「紙」』という記事で、ラグジュアリーなブランドになるほど、「わかりにくいメッセージを発する」ということを紹介しました。ラグジュアリーブランドになるほど、ロゴなどは小さくなり、紙の質だけで「良質」を伝えようとします。

しかし、この記事では、その本質までは説明していませんでした。このブランドがラグジュアリーになればなるほど「わかるひとにはわかる」というメッセージになっていくという傾向は、ロゴが小さくなるのと同様の傾向です。声が小さくなり、サイン(シグナル)も小さくなっていきます。クリスチャン・ルブタンのシグナルは靴底の赤になり、ボッテガ・ヴェネタは、ロゴではなく「イントレチャート(手編み革)」という編み込んだ革がシグナルです。このようにして、どんどんわかりにくくなっていきます。これは、

自分たちのステータスやスタイル(および哲学的な姿勢も含めて)を伝える相手が変化したためです。

新興成金の場合は、彼らが自分のステータスを示す相手は、その他大勢です。誰が見てもわかりやすいラグジュアリーブランドを使って、リッチではない多くの人々(つまり世間)に向けてシグナルを発信しています。しかしリッチな人々の中には、リッチではない人々と世界を棲み分けようとする傾向をもった人々がいます。なぜか? それは、治安や会話、コミュニケーションの合理化です。お金を貸して欲しいと言われることもなく、妬まれることもないし、一緒に行動もしやすくなります。税務署からだって睨まれたくないこともあり、目立つことも嫌い始めます。その結果、自分たちだけの世界を構築しはじめます。そうして、マウンティングしてこず、面倒ではない金持ち仲間を形成していきます。この傾向は、フィクションにもよく登場してきます。たとえば、マット・デイモンとジョディー・フォスターが出ている映画『Elysium(エリジウム)』もそうです。

閑話休題。このように世界を二分するのも大変なので、リッチでマウンティングをしたいわけでも目立ちたいわけでもない人々は、自分たちだけの世界を構築する方法を自覚してか無自覚にか使っています。彼らとってのインサイダーとアウトサイダーにわける方法。これが、ラグジュアリーブランドと紙でもふれた、

「わかるひとにはわかる」

という小さなサインです。ロゴが小さくなる理由はこれです。その他大勢には、高いものを見に付けていると思われなくて良い。自分と同じようなステータスのひとにだけ伝われば良い。そうすることで、物理的にではないものの自分たちの世界を作ることができます。しかし物理的にも彼らは世界を分けています。ファーストクラス、ラグジュアリーホテル、高級な自動車、バッグ。エルメスのバーキンのような高額商品は、買おうと思っても中古でなければ買えません。常連になって、ブランドから認めてもらう必要があります。フェラーリにしろ、ブガッティにしろ、ある商品は、お金だけじゃ買えなくなります。

映画に観る「わかるひとにはわかる」境界線

多くの方は、映画でこんな照明をみたことはないでしょうか?

アルコ・フロア・ランプ
source: Finnish Design Shop

これは、イタリアのフロスというブランドの照明で、カスティリオーニ兄弟によって1962年に発売され始めた照明です(粗悪なレプリカ多し、お気をつけてあそばせ)。30万円以上するこの照明は、「デザインがわかっているリッチな人のうちにある照明」というシグナルになっており、映画に頻繁に出てきます。たとえば、『アイアンマン』にも出てきます。

 映画『アイアンマン』より

この他にも、リドリー・スコット監督の『悪の法則(The Counsellor)』にも出てきた気がします(おぼろ)。

このように映画では、わかりやすい照明や家具、時計などをわかりやすい記号として使って、背景やキャラクターなどを説明します。しかし、「わかりにくい記号」を使う監督もいます。いちばん例に挙げやすいのが、クリストファー・ノーラン監督です。映画『TENET』では、上流階級の人間たちが出てくるのですが、服から家具やヨットも、すべて「わかりにくい」ものになっています。ここに描かれているのは、上流階級や富裕層にある「わかりにくい隠語」の存在とも言えます。

わかりにくいシグナルの最上級は「匂い」

『「香り」ラグジュアリーで使われるデザイン』という記事でも触れているのですが、「香り」は、隠語、インサイダーで仲間同士で通じるシグナルとしては、もっともわかりにくいものです。

香りにも高級と高級ではないもの、がありますが、それ以上のレンジとして、「高級にはない匂いから高級特有の無臭的な香り」というものがあります。タレントをCMや広告に使って、「良い香り」がする芳香剤、洗剤、柔軟剤が売られ、その分、使用されていますが、この人工の強い香料は、ラグジュアリーになっていくと自然由来の香りになり、そして無臭にもなっていきます。わかりやすい例が、おしぼり。レストランが高級になるとおしぼりの香りは消えるか自然由来なものになり、そうではない場合、柔軟剤などの香りがします。これは、ファーストクラスのようにわかりやすいものではない、境界線です。この香りというもっともわかりにくいシグナルを境界線として描いた巧妙な映画に韓国の『パラサイト』があります。

まとめ

香りにまで話を広げてしまいましたが、今回は商品が高額になるとロゴが小さくなる理由とそれにともなった隠語になるシグナルについてご紹介しました。しかしこの「隠語」なるもの、なにも富裕層だけのものではありません。ある文化や組織でも、密度が濃くなると「自分たちとそれ以外」という分化が発生します。これは認知心理学では「内集団バイアス」というものに関連してきます。内集団バイアスとは、「自分が属している集団には好意的な態度をとり、外の集団には差別的な態度をとるバイアス」です。サーフィンでも、ファンが濃いラーメン屋さんでも、「詳しいひとしかしらない言葉」というものがあります。これは、インサイダーとアウトサイダーをわけるものです。イギリスでは、出身の大学や階級で発音が変わってきます。によってイントネーションが変わってきます。映画『マイ・フェア・レディー』では、この階級による発音の違いが描かれています。

おもしろいことに、これらは隠語だけにこわだかに語られることがあまりありません。そんな世界の不文律をデザインで読み解くのもおもしろいのではないでしょうか。

ちなみにタイトルに使った腕時計の写真は、ショパール(Chopard)のもので映画『6アンダーグラウンド』にちらっと出てくるブランドです。

Chopard
source: rox

関連書籍

この研究は、ジョーナ・バーガー教授自身の著書で紹介されています。

ジョーナ・バーガー(著)『インビジブル・インフルエンス 決断させる力』

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参照

※1:ジョーナ・バーガーらの論文

https://www.acrwebsite.org/volumes/14339/volumes/v36/NA-36

※2
ジョーナ・バーガー(著)『インビジブル・インフルエンス 決断させる力』

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