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2022/07/08
アートディレクターの仕事を知る 『虎屋』
筆者:-

ビジネスに使えるデザインの話

ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。noteは毎日午前7時に更新しています

アートディレクター……?

アートディレクターとは、どんな職種なのでしょう。グラフィックデザイナーはイメージしやすいかもしれません。カメラマンもコピーライターもその仕事を想像するのは容易いところです。しかしアートディレクターとかクリエイティブディレクターって、少し離れてみると正直どんな仕事がよくわからない…ことがあるのではないでしょうか。むしろ「見積もりの項目がどんどん増えていくんですけど」と思うこともあるかもしれません。今回はこのもやったしたアートディレクターという仕事のイメージをクリアにした上で、その好例として『虎屋』というブランドについてご紹介していきます。ついでに(?)、クリエイティブディレクターとの違いも明確にしていきましょう。

アートディレクターとは

アートディレクターでもよくわからないのにADって略されるともう……
画像引用:Offers

アートディレクターとは、「見た目を整える監督」です。ブランドの見た目って、パッケージにとどまりません。Instagramなどのソーシャルメディアへの露出、ポスター、広告、ショッパー(紙袋)、名刺、店舗、社長や社員の姿、制服、映像……これ全部ブランドの「見た目」です。これらをすべてひとりのデザイナーがデザインしていくことは不可能です。何人かのデザイナーたちに分業して、それぞれが自分の担当分野の製作を進めていきます。別々の人間がデザインしていくので、あらかじめ設けたコンセプトやルールを設定しておいても、その解釈にはマチがあり、したがってアウトプット(成果物)にブレが生じていくことになります。

ブランディングというものの本質の一つは「統一」です。どういうことかというとお隣さんが、毎日違う人間だと不安になってきますよね。いつもと同じ人でいて欲しい(笑)。しかし同じ人間だとしても、今度は声や髪型、話し方、服装や態度が会うたびに変わるとやっぱり不安です(多重人格かなぁと疑ってしまいます)。この真逆が、統一です。いつもと同じ人、同じキャラクターって安心なんです。たとえば仕事かなにかでニカラグアを訪れることになったときに、とりあえずお腹がすいたのでと街を見回したときに、そこにマクドナルドの看板があるとホッとしますよね。とりあえずマックで腹ごしらえしちゃおう!と思うかもです。でもこのとき、マクドナルドのMの色が微妙に緑がかっていたらどうでしょう? 不安ですよね?(笑)え、これほんとにマクドナルド?と思っちゃいます。統一って重要性なんです。信頼と安心を作るのが統一です。

色が違うマクドナルドはちょっと(かなり)不安

この統一を作るのがアートディレクターです。また「どのように統一していくのか」、そのコンセプトをクライアントとともに明確にしていくのもアートディレクターの仕事です。だからとてもコンセプチュアル(概念的)な仕事でもあります。そして同時にコミュニケーション力が求められる役職でもあります。クライアントは最初から「自分たちのブランドのコンセプト」というものを明確に自覚している場合は少ないものです。また有ったとして時代とともに変容し、現在の本質とずれていることもあったりします。それを見つけるにはコミュニケーションをとりながら、一緒に見つけていく必要があります。しかも、こんどはそれを多くのクリエイターたちに伝えていく必要と、彼らが作り上げたものがコンセプトからずれていたら、それを指摘し、正すことも必要になります。

これが、アートディレクターの仕事です。
※よくADと略されますが、あれ、あまり良くない行為だとわたしは思っています。クリエイティブ業界の隠語に近い。どんな世界も先鋭化していくと隠語が生まれます。

クリエイティブディレクターとの違い

クリエイティブディレクターは見た目以外も含めて統合する役職
画像引用:Staseon

ビジュアル、つまり「見た目」以外にもプロジェクトと全体を進行し、完成させるために必要な統合があります。予算、スケジュールなど、見た目を作るために見た目以外の仕事も発生します。プロジェクトが少し大きくなってくると関わるスタッフや外注先、クライアントの担当者も増えてきます。そういった関係者たちとの調整には、スタッフを統合するディレクターが必要です。アートディレクターが見た目を統合する仕事だとすれば、クリエイティブディレクターは、人とモノと都合を統合するのが仕事です。

とはいえ、実情は、アートディレクターとクリエイティブディレクターはまったく別の職種ではなく、重なる部分も多く、使い分けが厳密じゃない場合も多々あります。どうして重なるのか?

それは、アートディレクターの仕事の「見た目の統合」には、前述の通り、見た目を作るベースであるコンセプトというものの形成や伝達も本質的に含んでいるからです。なのに「お金とスケジュールや手配はクリエイティブディレクターが……」ときれいに分業できるかといえば、厳しい。予算と見た目は関連するし、スケジュールと制作もやはり関係してきます。なので、実質はアートディレクターもクリエイティブディレクターも似たようなことをやることが多くあります。ただし、制作の規模が大きくなるとアートディレクターの仕事が増えるすぎるので、クリエイティブディレクターが必要になってきます。

ちなみにファッションブランドに関しては、クリエイティブディレクターは、広告などのアートディレクターに近いです。ややこしいですけど。

ごちゃごちゃしてきたので、最後に2つの役職の違いを強引にまとめてみましょう。

アートディレクターは、見た目を統合するのが仕事です。クリエイティブディレクターは、(見た目がメインの)プロジェクトを進め、完了させ、成果をあげる可能性を上げるのが仕事です。

虎屋というブランドと葛西 薫氏

虎屋赤坂店
画像引用:虎屋

虎屋は会社自体は1947年の設立ですが、その始まりは、室町時代。まさにこのうえないほどの老舗の和菓子屋メーカーです。現在では、虎屋は「厳かなる老舗の和菓子」というよりは、「老舗でおしゃれな和菓子」というイメージを持っている方のほうが多いのではないでしょうか。そのイメージが生まれた始まりは、2003年に六本木ヒルズにオープンした「TORAYA CAFÉ」でしょう。この店舗をオープンするのにあたり、サン・アドという総合広告代理店と葛西薫(かさい かおる)が、プロジェクトに参加します。そして葛西薫氏が、このプロジェクトにおいてアートディレクターに担いました。その後は、葛西薫氏は、虎屋グループ全体のクリエイティブディレクターに就任します。そして、虎屋のパッケージデザイン、店頭POP、パンフレット、広告、新店舗のクリエイティブディレクションを担ってきています。

葛西 薫氏
Andrea Belvedere – https://www.flickr.com/photos/scieck/41244627612/in/photostream/, CC 表示 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=77043405による

てっていして「ちゃんとしている」虎屋の“見た目”

虎屋の小形羊羹
画像引用:サン・アド

葛西薫氏が、虎屋のアートおよびクリエイティブのディレクションをするにあたり、最初にしたことは、「整える」ことでした。創業から数百年のあいだに複数ある商品のイメージのばらつきが生じてしまっていました。それらを「整えていきましょう」というのが、葛西薫氏が虎屋に提案したことでした。具体的には、商品名を示す文字(ロゴ)の書家の統一。成分表示から商品紹介の文字組みまで整えていきました。ちなみに書家は、古郡達郎(ふるごおりたつろう)氏。

虎屋とピエール・エルメ・パリとのコラボの「イスパハン」
このISPAHANの文字も古郡達郎氏の書。
画像引用:ku:nel

日本で一番欧文組版をちゃんとして表記しているブランド(私見)

商品紹介の欧文のみならず、店内の欧文組版もちゃんとしていました。
画像引用:虎屋

日本人は、英語に弱いぶん、必然欧文組版にも弱くなります。欧文組版とは、欧文の表記に関するルールのようなものです(実際には欧文を組むにあたっての諸々という意味ですが)。かなり多くの日本ブランドが見落としがちの合字をちゃんと使用し、イタリック体の使い方も正しい。お手本のような欧文組版です。ここまで徹底しているブランドは他に観たことがありません。

虎屋のロゴ

1年以上かけて完成させた虎屋の欧文ロゴ。ドイツのモノタイプのタイプディレクター、小林章さんも協力されています。
画像引用:虎屋

欧文ロゴには、和文にはないバランスのとり方があります。わかりやすくいうと全体をぱっとみたときに、ある箇所に目が行ってしまわないことが大事です。やけにあいたスペースや詰まった場所などには不自然さが生まれて、バランスが壊れます。タイプディレクターの小林章氏まで協力してもらいながらのロゴの制作は、かなりかなり徹底しています。欧文組版といい、虎屋は、海外も市場として日本と同様に重要視しているのでしょう。

虎屋の手提げ袋

虎屋の手提げ袋
画像引用:虎屋

この虎屋の手提げ袋は、18世紀に作られた5段重ねの重箱をモチーフにしています。この手提げ袋のデザイナーは、サン・アドの掘内恭司氏と櫻井亮太郎氏。そしてクリエイティブディレクター兼アートディレクターが葛西薫氏です。ちなみにこの虎、オリジナルの虎より5°ほど尻上がりに整えられています。躍動感をかすかに増すために。それでも葛西氏は、リニューアルするにあたって、顧客に変わったことに気づかせないように気をつけたといいます(※1)。

まとめ

いかがでしょうか。アートディレクターやクリエイティブディレクターという仕事の実態を理解するには、虎屋の見た目をみるのが一番わかりやすいとわたしは思っています。どれくらいコストをかけられるか?という問題もありますが、「整える」ということの意味とその例を理解するのには、やはり最適なのが虎屋のブランディングだと思っています。

あ!ちなみに虎屋な空間を作っている方は、内藤廣氏という建築デザイナーです。内藤廣氏にもいつかフォーカスをむけてみたいと思います。

御殿場にあるとらや工房
ナビ通り行くと一回は道に迷います。
ここの設計も内藤廣氏。
画像引用:サン・アド

参照

※1

https://sun-ad.co.jp/works/toraya/logotype_naming