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2022/06/02
雑誌カバーでわかる「おしゃれ」の正体
筆者:-

「おしゃれ」とか「かっこいい」って何だ?

Esquireのカバー
source: Pintarest

売り出したい商品、サービス、魅力的に見せたいウェブサイト、本の表紙やパッケージ……などを制作するとき、デザイナーに「おしゃれでかっこよくしたい」と依頼することはないでしょうか。逆に、そう依頼されるデザイナーも多いでしょう。しかし、この「おしゃれ」とか「かっこいい」って、一体何なのでしょうか?

ざっくりした「おしゃれでかっこよくしたい」という課題の要件定義を詳らかにしてみましょう。こういった定義や課題を浮き彫りしたいときに有効なアプローチは、その逆から具体的にしていくというもの。この場合「ダサくて、かっこ悪い」って何か?

ダサくて、かっこ悪い

ちなみに、正しい日本語では「格好悪い」、「格好良い」なので、ひらくと(ひらがなにすると)「かっこう」となります。しかし、ここはちょっと口語的に使っていきたいので、「かっこ」でいきます。なぜか?それは、「おしゃれでかっこよくしたい」というオーダーが直感的だからです。さて、では「ダサくて、かっこ悪い」って何かを探っていきましょう。これは思いの外、シンプルに言い換えることができそうです。

見た目が魅力的ではないこと

いかがでしょうか。ダサくて、かっこ悪いとは「見た目が魅力的ではない」。もうちょっと掘り下げてみましょう。「ダサい」とは「おしゃれではない」ということになりますが、ビジュアルにまとまりがない、とも言えます。逆にビジュアルにまとまりがあれば、ある種のコンセプトが純化されます。髭が伸びて、大きな鞄を持って、服がボロボロであれば、ホームレスっぽいというイメージが気持ちよく合致します。これを「ダサい」とは言わないんです。ダサいとは、狙いと見た目がズレていることです(まとまりがない)。『バルミューダフォンがなぜダサいのか?』という記事でも近いことを書きました。

ダサい=大きなズレ

「かっこ悪い」とは

つぎに「かっこ悪い」とは、何か。これは、「美的ではない」とも言えます。美には、ある程度、法則があります。黄金比などはわかりやすい例です。その他、グラフィックデザイナーたちが美大や専門学校で学ぶものに、美というものを解体した理論があります。英語だとこれは「aesthetic」となります。色の組み合わせには、うまくあわないものがあります。紙面に多すぎる要素がひしめくと人は、そこからメッセージを読み取れなくなります。要素の大きさや強さに順番がない場合もです。何から見て、次に何を見て良いかわかりません。

さらにもうひとつの要素が「かっこ悪い」に関わってくるものがあります。

時代(流行)

人は歳を取ったり、知識が増えると「普遍性」を求め、その逆の「一時性」を軽視するようになります。結果、流行というものを軽視する態度が一定数存在することになるのですが、流行というものは、実のところ、歴史の宿命で、言い換えると「動的平衡(どうてきへいこう)」とも言えます。これは、物理学・化学などにおいて、互いに逆向きの過程が同じ速度で進行することにより、系全体としては時間変化せず平衡に達している状態を言うのですが、わかりやすくいうと短い期間でみると上がったり、下がったりしてみえるが、長い期間でみると全体的に一方向に進んでいるという意味です。芸術にしろ、デザインにしろ、革新的なものと保守的なものを行ったり来たりしながら進んでいきます。むしろ、この「行ったり来たり」がないと先に進まないとも言えます。ゆえに流行というのは重要なものです。

さて、この流行から大きくハズレても、ダサくなったり、かっこ悪くなったりします。これら3つの要素をまとめるとこのような式として表現できます。

おしゃれ&かっこ良いの公式

おしゃれ&かっこ良い = 思想 + セオリー + 時代圧

思想とは、コンセプトであり、先の話で言うところの「まとまり」でもあります。セオリーとは、美的なセオリーです。黄金比、白銀比、配色、色相環、ジャンプ率、順番、余白などなどの基礎知識や法則に加えて、書体やデザインの歴史などの知識も含みます。時代圧は、流行です。これらの要素の総合点が、「おしゃれ&かっこ良い」を形成します。

「おしゃれ&かっこ良い」以外の「高いと低い」

おしゃれやかっこ良いということ以外の要素に、「高いと低い」という要素もあります。高いは、意識が高い、洗練されている、値段が高いであり、低いは、意識が低い、というか、とっつきやすく、クルード(多くの情報を整理せずにそのまま)であり、値段が安い、ことを意味しています。これは、おしゃれ&かっこ良いの度合いと比例しており、おしゃれでかっこ良くなるほど、高くなり、ダサくて、かっこよくないほど低くなります。この概念と具体的に視覚的なものを対応させるとこのようになります。

高い = (色、モノの)ファクターが少ない
低い =(色、モノの)ファクターが少ない

クルードであったり、情報が多かったりすることが「悪い」わけではないありません。わたしたちには、ごちゃごちゃしたものを好む傾向もあります。テレビ番組のセットはとてもごちゃごちゃしています。ドン・キホーテにはある魅力があります。ファクターが多いことが示す豊富さや魅力というものがあります。これは「下世話なものへの魅力」と近くもあります。教養も好きですが、噂話も好きだったりします。しかし「おしゃれ&かっこ良い」は「低い」ものと相性が悪いです。実例を見ていきましょう。

雑誌のカバー

雑誌Brutusの表紙

こちらは、雑誌Brutusの表紙です。ファクターが少ないため、「高い・低い」でいうと高い。意識が高い。1コンセプトしか見せていない。紙面にある要素は少なく、順番が明確です(雑誌タイトル→鉱物の写真→テーマ→英語副題)。おしゃれ。

雑誌『女性自身』

(色、文章、写真)要素が多く、「高い・低い」は低い。情報がクルード。下世話。いろんな噂話がぎっしり詰まっている印象が得られます。しかし「おしゃれ&かっこ良い」印象はありません。経済誌も見てみましょう。

週刊エコノミスト

色が4色もあります。要素も多い。順番は明確なので、読むのに迷うことはあまりありません。しかし要素が多いので、「高い・低い」は「低い」。おしゃれではありません。

週刊東洋経済

文字要素は多いものの、色は2色(白黒は除く)。エコノミストと比較するとおしゃれでかっこ良い。しかし要素は多いので、エコノミストとの比較ではなく、雑誌全体でみると、おしゃれ&かっこ良いとは言い難い。

雑誌Forbes Japan

写真の彩度は抑え、色要素を減らしています。ゴールド以外の色要素がない紙面です。キャッチコピーはひとつ。要素が少ない。おしゃれ。

カラーの写真でも色要素を少なくできる

雑誌TIME

フルカラーの写真でも、アートディレクションの力で、色要素を減らすことが可能です。こちらの表紙では、カラー写真でも肌色とピンクのみの色要素です。しっかりと色をデザインしているため、白抜きの文字をきれいに載せられています。こういった紙面を作るために、写真を撮影しています。この意識がなく、写真に文字を載せようとするとどうなのか。それは、文字がとても読みにくくなります。なぜなら文字の後ろにある色が複数になるためです。コントラストもバラバラになります。それでも文字を載せたいとき、文字に縁をつけて対応するほかありません。

雑誌『つり情報』

文字に「ぼかし」の縁をつけることで、対応しています。これをやると洗練度合いが減るため、「高い・低い」は低くなります。洗練はされていない印象になります。一方で、「複数の情報が満載(クルード)」な印象は形成されます。おしゃれでもかっこ良くもありません。タイトルにある通り「情報誌」というニュアンスがばっちり伝わるカバーです。

東京カレンダーの表紙

東京カレンダーの表紙は、情報が多いのに、洗練されています。見ての通り、写真そのものの色要素が少ない上に、載せている文字情報(雑誌タイトルも含め)が、写真にある少ない色要素を使っているため、写真に同化しています。これによって、ほとんど写真だけのような印象を形成しています。おしゃれ。おもしろいのは、キャッチコピーにアンチックを使っているところです。漢字がゴシック体なのにひらがなは明朝体です。漫画の吹き出しでは、よくこのアンチック体が使われています。

まとめ

実例に出した雑誌は、どれも全国的に展開しているもので、デザインとしてクオリティが低いというものはありません。しかし「おしゃれかどうか」という点でみるとわかりやすく二分できます。このように雑誌を見比べることで、

おしゃれでかっこ良い

という概念の正体をある程度、浮き彫りにできたのではないでしょうか。要素だけ書き出すと、

  • 思想

  • セオリー
  • 時代圧
  • 高い・低い

です。雑誌なので、どれも思想ははっきりしています。全国展開しているだけあって、デザインセオリーを抑えているものが多い。時代圧に関しては、ファッション誌になるほど敏感に対応しています。しかし高い・低いはきれいに分かれています。これがほぼそのまま「おしゃれでかっこ良い」か否かを分けています。これを理解することで、「おしゃれでかっこ良い」というものを作るとき、何が邪魔をするのか、何が必要なのか、ということが理解しやすくなることでしょう。

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