「自分の身近で大切な人たちの心情を含めて切り売りしたものを書いて、
売れたところで、物書きとして二流ではないか。そのくせに偉そうで腹ただしい!」
というのが、後半近くまでずっとタイトルにも含まれている檀一雄への心象でした。
この本は、愛人との日々を吐露して、一躍ベストセラーになった『火宅の人』の著者、檀一雄の奥さんが、懐中と経緯を
開陳していく本です。
作者の沢木耕太郎さんが、檀一雄の奥さん、よそこさんに尋ね、よそこさんが述懐するかたちで
書き上げています。
スキャンダラスな「家宅の人」にたいして
スキャンダラスならテーマで対を成すように出版された、
そういう本にみえかもしれませんが、
そういういやらしさは全く感じません。
悲しい女の悲しみを浮き彫りにしているわけでもありません。
檀一雄の死期を予感するほどに読み進めていくいくうちに
自分の中にふつふつと湧いた断罪するような気持ちは
静まっていき、
よそこさんにしろ、檀一雄にしろ、
人生というものに真摯に向かって
生き続けているという事実だけに
心を揺さぶられるようになっていきます。
なんとなくですが、
人の不完全さを許容する
可能性が湧いてきます。
不思議な話ですが。
読み終える頃には、
檀一雄をそれほど嫌いではなくなっていました。
「ほんとにもう!」という苛立たしさは
消えた後の焚き火から登り続ける煙のように
残ったままに。