『最高の体調』の鈴木祐氏やメンタリストDiaGo氏の著書が、論文ベースなのに対して、橘玲氏の本は、他者の著書をベースにしています。その辺が、精度という意味では少し危うくなります。本の論拠を確かめるのが、やや手間だからそのままにしておきがちで、そうすると不確かなものを積み重ねた論理になっていくから。だから「ほんとかしら?」という疑問を持つにはとても良い。
それに、この本のテーマは、すごく良い視座を与えてくれます。それは
「人々が自分たちの都合のために作り上げた常識の一つでもある倫理を外してファクトを見たら見えてくるものを根拠に世界観を構築しよ」
というものです。これは、最近でた『ファクトフルネス』も近いテーマですが、あちらは、もう少しポジティブで、こちらは、いくぶんパセティックです。文体もパセティック。でも姿勢はポジティブ。(それが橘玲さん、というのがわたしの見立て。)
アマゾンの書評には、「エピジェネティクスを無視した本じゃな」という批判もあったけれど、わたしたちの遺伝子が旧石器時代をベースにしているということ、農耕時代から生まれた歪みについては、世界的ベストセラー『サピエンス全史』より先んじて触れていることに先見の明が伺えました。そもそも書評の「エピジェネティクス」の持ち出し方も、うーんという感じがあるので、書評についてはおいておいて、それでも本ベースなので、気になる部分は自分で調べましょ!とは思います。
それでも、性については、かなり面白かった。そして、これについては、確かに「言いづらい」。
またあとがきが痛烈。
橘玲氏は、猛烈に研究される方なので、その知識の編纂をおこぼれ的にいただくというよりは、「自分より圧倒的に研究している人の知見を通して自分なりの課題を形成する」という接し方が、今の所わたしはベストだと考えています。そして匂いは好きではないものの、彼を経由して得たいものはまだまだある、ので、どんどん読んでいきたいです。そしてその熱量と慧眼(鳥の目、魚の目、虫の目の凄さ、というかよくそこからメタな視点に引けるな!とバランス感覚)にものすごく尊敬の念を抱きます。
(大田 2019年 82冊目)