という考えがこの本を「必読書」とする根拠です。
現代に僕らが心の不調を訴える可能性というのは
とても高い。
その一方で、
病んだときに頼るべき医者が
根拠の弱い治療をして
それを良しとしている。
「でも知りませんでした」とか
その医者たちを後になって責めたところで
取り返しがつかない。
だから、前もって
自分たちで
どこかで鳴っている警鐘に
耳を済ませて
鳴らし手の声を
読む努力はしたほうが良い。
ロビン・ファーマンファーミアンという
起業家は、クローン病という難病に苦しんでいたのだけれど
医師たちの治療に疑問を持ち、
彼らすべてを「クビ」にして、
自分自身が「CEOとしての患者」と決意し、
自ら徹底的に勉強し、新しい
メディカルチームを作って
治療を劇的に改善し、
ずっと彼女を苦しめ続けていた
痛みから開放されました。
(日本版フォーブスNo.39)
この『エビデンス・ベイスト・プラクティス』は、
論文の見つけ方、利用の仕方が
知りたくて購入したのですが、
副産物的に
日本のひどい臨床心理の現状も
知ることもできました。
思うに、
臨床心理のみならず
その他の医療の現場でも
さほどインフォームドコンセントは
浸透しているようには体感できないし、
治療の根拠を提示されることも
ありません。
質問しても、わかりやすい答えが
返ってこないことが多いと僕自身
感じています。
(最近なかなか大きなケガをした。)
そもそもエビデンスとはなにかというと
「使える根拠」です。
エビデンスにも質のランクがあります。
一番低いのは、
「事例研究」。
一人、または少数の事例を対象とした研究を
「事例研究」と呼びます。
Aさんに治療Bを施したらうまく行った。
よって「治療Bには効果がある」
というもの。あまり信頼できるエビデンスではありません。
一方で
最も信頼できるエビデンスは
ランダム化比較試験(RCT)やメタ分析です。
こうした信頼性の高い
研究結果に基づいて
実践(プラクティス)をすべきというのが
世界的な潮流なのですが
日本の臨床心理が
根拠にしているのは
ほとんど「事例研究」なのだそうです。
例えを二つ。
1つめは、
心理的デブフィーフィング。
これはトラウマを受けた人々に対して
トラウマの内容を吐露させる心理的介入です。
東日本大震災のあと、
トラウマケアのために
多くの臨床心理士が被災地に赴き、
その際、被害を受けた子どもたちに
被災時の絵を描かせたケースがありました。
その結果、子どもたちが悪夢にうなされたり
情緒的に不安定になる悪影響をもたらしました。
心理的デブリーフィングには害があることは
2002年にすでに発表されていました。
エビデンスなき治療を
施したこの結果は
著者である原田隆之氏は知らなかったでは
すまされないと厳しく責めています。
2つ目は、
箱庭療法。
これはかの河合隼雄氏が
「直感的閃き」によって
普及された療法で
今でも日本でのみ広く
実施されれているが、
この箱庭療法の論文は
ほとんどすべて「事例研究」で
信頼性の高いRCTは国内外に
1つもないそうです。
検証なき偉人の「閃き」に
のみ頼っての治療を
施されるなんて
受ける側としては勘弁して
ほしいことこのうえありません。
僕はこの手の話を耳にすると
いつもイグナッツ・ゼンメルワイスという
偉大なる医師のことを思い出します。
産褥熱という
出産によって生じた産道や子宮腔内の創傷が細菌に感染して引き起こされる
病気なのですが、
これにより多くの母子が死んでいたのですが、
「これは医師の手をちゃんと消毒すればふせげるんじゃないか」と
いうことを発見したのがゼンメルワイスです。
しかし多くに医師たちからの
強い反対にあいます。
今まで患者たちが死んできたのが
医師自身の手が原因だった
ということを受け入れ難かったためです。
結局ゼンメルワイスは、
神経衰弱で参ってしまい、他界してしまいます。
本当のことが伝わらないもどかしさ、
真実を認めない権威や組織や世の中。
こういった歴史から
学ぶべきことの存在を強く感じます。