1904年、北海道函館生まれの画家。画集と文集。
飼い猫のタローについての話が面白いのだけれど、その筆致は画風に合致しています。
若い頃はまだ何かしらの(そして同郷だからそう思うのかしれないが、北国らしき憂いを含んだ)懊悩が見て取れる。
次第に開いて健やかになっていく画風に、それでいて懊悩や憂いの名残が含まれていて、それが絵に奥行きをもたせているし、長谷川潾二郎さんのシグニチャーにもなっている。
猫好きなのに、猫の絵をあまり描かない。
静物画が多く、その多くにアトリエの窓が、花器などに写り込んで言外に場所の共通を見て取れる。
柔らかいのに冷たい色温度、
写実的なのに二次元的、
明るいのに憂いを含む。
そのアンビバレンスは、人間そのもの。
絵を描く人なのに、匂いについてこう触れている。
よい画はその周囲をよい匂いで染める。よい画は絶えずよい匂いを発散する。よい匂い、それは人間の魂の匂いだ。人間の美しい魂の匂い、それが人類の持つ最高の宝である。
その実、良い匂いがしそうな絵です。
実際に観てみたいものです。
大田 2020年33冊目