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夜想曲集
イシグロ カズオ

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  • ジャンル:
    小説・詩・エッセイ
  • 読了時間:
    1.5時間
  • 形態:
  • 読んだ人:
    大田忍
  • 評価:
    オススメ

才能とロマンスを越えていくための
アイロニカルな笑いと何か

イシグロカズオ氏にとって初めての短編集。
私を含めてまだ著者の作品を読んだことのない方には
手に取りやすいのではないでしょうか。
旅行に持っていくというよりは
普段、仕事が終わったつかの間の時間(それこそ夕暮れどき)に
喫茶店やバーや公園でつまみながら読む
のが、良いように思う読後感がある。
5つの短編は、
音楽と夫婦の危機、というテーマが
フレームになっている。
同じ登場人物たちが
ことなる話に登場してくるところもあるので
注意して読むと、より楽しい。
ここでの「夜想曲」の夜は、
人生か「何か」の後半を暗喩している。
解説において、中島京子さんが、
イシグロカズオのコメディセンスに
注目して解説しているのですが、
これは言い得て妙というか
幾分悲しみや諦念にちかい気配が
ただよく全編のなかで
どのようにして人が生き続けていくのか、
の解答のひとつがそれなのだと私は思う。

ちょっとした笑い

です。
これで人は、歩をまた一歩
どんな方向のものであれ、
進めることができる。
そういう意味では
ウッディ・アレンの映画にも
近いニュアンスが含まれている
ことがある気もしてきます。
【収められているタイトル】
「老歌手/Crooner」
原題のCroonerは、「低い声で感傷的に歌う人/クルーナー」という意味。
ベネチアを訪れたことのある方は、一層楽しめることでしょう。
「降っても晴れても/Come Rain or Come Shine」
アイロニカルなのに、小さな火種のような愛が根底にある気がする。
「モールバンヒルズ/Malvern Hills」
イギリスの美しき片田舎、モールバンヒルズが舞台。
主人公が若者で、彼とスイス人の夫婦の関わりが主軸。
才能の有無について、人がどう対峙していくのか、
という問いが含まれている気がします。
「夜想曲/Nocturne」
主人公に腹が立ってしょうがない。
しかしこれを読んだ後に大きくてゴージャスなホテルに泊まったときには
館内を徘徊したくなるかもしれません。
「チェリスト/Cellists」
日本語だと表現されませんが、
チェリストが複数形であるニュアンスが
この短編の中にあります。
読者をどこにもいざなわず、
見たことのない風景の知らない
土地に置いていきます。
そこから日常に帰ってきたときに
自分が以前と少し変わった場所に
いることに気づくかもしれません。
このなかで最も好きな短編でした。
原題は、“Nocturnes” Five Stories of Music and Nghtfall
出版社: 早川書房
カバーイラスト: 田地川じゅん
カバーデザイン:坂川事務所
翻訳:      土屋政雄
解説:   中島京子
(2018/10/15)