映画みたいな小説で、小川洋子さんの作品全般に言える希薄すぎる現実感。薄い膜のような色気。それのみなら話の展開にも引き込まれます。
チェスがしたくなります。そして長続きしません、わたしの場合。
アゴタ・クリストフの悪童日記と通じるのは、頭の良い少年が生き抜く、というプロセス。
わたしたちは結局、いつも知恵を絞って打開策を見つけながら生きていく生き物なので、こういう姿を見せられるとたまらないわけです。彼岸此岸の差を感じることがあろうとも。
わたしたちを導きもしないのに別世界に引き込むのが小説の素晴らしさのひとつ。この小説の世界は、空気の味が少し違うので、行って帰ってくるとほっとする。
大田 2020年112冊目(通算469冊)