ふたたびデイヴィッド・J・リンデン氏。
わたしたちは何かと「人間の脳ってすごい!」と未知なる領域と可能性に溢れる我らが器官を畏怖の念をもって崇める傾向があるも、たしかにすごいけど、その実態は「増築に次ぐ増築によっていびつになったアジア的住居のようなもの」だということを知ると、不思議な親近感を持って親しみを感じる視線に変わります。
リンデン氏なので性的な話題にももちろん及んでいて楽しめます。ただし彼の知見よりは、より進化心理学的な視点のほうが実際の姿を正確に観ることができる気がわたしはしてますので、ケンドリック氏の『野蛮な進化心理学』も併読しておきたいです。
それはともかく人間の脳についてはほんとうに科学的な知識をスタンダードなレベルまで得ておくと本当にハックしやすくなって良いです。わたしたちは自分の心の正体がたとえ「現象」であることを知っても、それでもなお心に諦めずに接する理由が、幸福を感じるところもまた心にあるからです。「幸せ」という感覚すら、本来生き延びやすくするための指向性を持った刺激に過ぎませんが、幸福は気持ちがいいので捨てる理由もありません。なのでその仕組みを知るのはとても便利なんです。
本書もその脳の正体を知るのに役立つ本です。何よりも脳についてのイメージをこれほどわかりやすく解説してくれた本はなかったように思います。リンデン氏は、読みやすくするための工夫なのか本人の気質なのか世俗的な文体ですが、おかげで気楽に読めます。
かれの著書を契機に脳科学や神経学などの知識を付け足していけば、バランスが良い知識を構築できると思っています。
大田 2020年135冊目(通算492冊)