エビデンスベースという感が少し弱い。例えば、癌の自然治療医による指示(「コーヒーとスコーンの摂取頻度をさげるように」)は、何を根拠にしているのかわからない。癌とコーヒーに関しては、「コーヒーはいかなる部位でも癌との優位な関連はない」ということを、97年に世界がん研究基金が発表しています。
このように根拠の深度や信頼性にはムラがあるように見えます。
しかし、この夫婦の飽くなき試行錯誤は、たいへん面白く、真似したい。その軌跡は、ほぼ物語で、微生物を通した二人の物語という印象を受けます。
妻のアン・ビクレーさんが自分の癌を知って、美しい夕暮れのグラデーションを見ながら、膝をついて泣く姿は、強く心を打ちます。
身体の中、土の中の微生物についての探求は、いちいちおもしろく、知らない世界が広がっていきます。
科学的な専門書というよりは、知見を得られる小説(ノンフィクションの)でも読むような心持ちで手に取る本でした。
わたしは、最近、自然のなかで過ごす頻度が多くなったので、土や川の水にふれる機会がその分多くなりました。
その見える世界の奥にある微生物の世界を恐る恐る感じていました。それらに少しは近づけたように気がします。
それが嬉しい。
ところでこの本、カバーを取った中の装丁がチャーミングです。
それから翻訳者の片岡夏実さんは、微生物や昆虫などをテーマにした他の本の翻訳もされているからか、読みやすい翻訳をされている気がします(原著を読んでいないから比較できないが)。
これは、バカンスに持っていってプールサイドでまたゆっくり読みたいなぁ。
大田 2019年126冊目