1961年に出版されたイギリスの歴史学者、エドワード・ハレット・カー(Edward Hallet Carr)氏の著書。
翻訳は、清水幾太郎氏。
歴史を客観視しようとしてきたそれまでの歴史学に対しての批判がメインか。翻訳者は「静かな」口調というが、わたしが感じたカー氏の声は、「抑揚がないが、冗長ではなく、重要な部分がどこかわからないままに重要な箇所を逃すまいと常に緊張した姿勢で拝聴しなくてはいけないのでとても疲れる。疲れるが、パラパラと差し込まれるシニカルさがスパイスのように効いて、ダレそうになる集中力が絶滅せずに息も絶え絶え生き延びつける……そういう空気を創る」ものと感じました。例えが長い。
ケンブリッジ大での講演を書籍化したものですが、冒頭のエピグラフで引用された『ノーサンガー・アベイ』というイギリスの作家、ジェーン・オースティンよって書かれた長編小説(1798年から書かれ始めて、1817年に発表されたもの)の歴史関する一節が、見事にカー氏の言わんとしているテーマを表現しています。
「八分通りは作り事なのでございましょうに、それがどうしてこうも退屈なのか、わたしは不思議に思うことがよくございます。」
エピグラフって、それをコーディネートしてくれる専門職の人がいる気がするんですけど、どうなんでしょう。
この本に何度も出てくる表現は、
「歴史とは、過去と現在の対話である」
というもの。カーの思想を指して、Relativism(相対主義)という表現がされますが、この表現にそれが伺えます。
歴史を学ばされるのは、面倒ですが、自ら進んで知ろうとした途端に魅力が燦然と輝くから不思議。その歳、カーのこの著書を読んでおくとバランスが良くなりそうな気がします。ゾンバルトも合わせて読みたいかも。
大田 2020年460冊目(通算103冊)