著者による経済複雑性指標(Economic Complexity Index)がおもしろい。
情報の視覚化が、著者の研究のテーマのひとつなんですが、そのプロセスで情報を精錬化とか抽象せず、
情報の全体像を把握するようにしているように見えました。
それがそのまま、文体にも反映されていて、長い。
長いけれど、雑さは感じませんでした。
いまどきの本は、強調するところがわかりやすく強調されており、なんなら章ごとに「まとめ」を付けてくれています。
速読には、ありがたいのですが、それとは真逆の構成ともいえます。
内容に関しては、
エントロピーの増大(平均化)への抗いこそが、人間の楽しみであり(「楽しみ」はわたしの追記的な挿入です)、営みである。
情報の成長とは、想像の結晶であり、それを経済というフェーズに転換すると「経済複雑性指標」になる。
このあたりは、わかりにくいかもしれませんが、
わたしの尊敬する学者が、会話のなかで「世界は安定すると終わる」とおっしゃっていて、それが、つまりエントロピーの増大を意味しています。
またダン・ブラウンの小説『オリジン』でも、エントロピーは扱われており、というかテーマであり解答でもあるんですが、わたしたちは、そのエントロピーの一環の現象に過ぎないという帰結になっていました。
つい、美的観点から言えば、洗練させること、削ることを美徳と考えてしまいますが、この本により複雑性の価値を再認識させられます。
ちなみに原題は、“Why Information Grows”です。「情報の成長」というのがこの本のキーでもあります。
ブガッティがその例えに使われますので、車が好きな方は、得心しやすいでしょう。
人生観に大きく関わる本ですので、わたしはこの本でけっこう人生が変わったと感じています。
大田 2019年104冊目